個人投資家が株式や投資信託を保有する期間の短期化に歯止めがかかってきた。2014年度の平均保有期間は株式が8.9カ月と前の年度比で3.3カ月長くなり、投信も2年2カ月と同1.8カ月伸びた。14年に少額投資非課税制度(NISA)が始まったうえ、日本企業が増配など株主還元を強め、長期投資が報われやすくなってきたためだ。株主構成の安定要因といえ、企業経営の目線を長期的なものにする効果もありそうだ。
個人の保有期間は08年度をピーク(株約1年5カ月、投信約4年3カ月)に短期化が続いてきた。リーマン・ショックを受けて先安観が強まり、株価が戻ると早めに利益確定売りを出す個人が増えたためだ。
NISA導入や株主還元の拡大を受け、こうした基調に変化が出ている。NISAは上場株式や投資信託への投資から得た利益が原則5年間は非課税になる制度だ。長期投資に有利な設計で、14年の資金流入額は約3兆円にのぼった。上場企業の配当や自社株買いによる株主還元は14年度に約13兆円と過去最高になる見込みだ。
平均の保有期間が長くなった主力企業(個人以外の投資家も含めて推定)は、増配などで株主還元を拡大したり、株主優待制度を設けたりして、長期保有の株主を増やそうとしているケースが目立つ。
例えば、NTTドコモの14年度の保有期間は3.0年と前の年度と比べて0.8年伸びた。14年度は最終減益の見込みだが、「高水準の配当と自社株買いで株式の価値を上げ、長く株式を保有してもらいたい」(加藤薫社長)として、年間配当は実質5円増やし、配当性向は前の期の53%から60%強に高めることなどが長期マネーを引き付けた。14年度まで連続で増配する豊田自動織機やヤクルト本社も株式の保有期間が伸びている。
アベノミクスや日銀の大規模緩和を追い風に、日本株相場は2年超にわたって上昇が続いている。こうしたなか、「先高期待が強まり、利益確定売りが出にくくなった」(SMBC日興証券)のも個人の株式保有を長期化させる要因だ。
企業の株主還元はさらに拡充される方向で、「株式を長期に保有する個人が増える」(岡三オンライン証券)との声がある。企業にとっては、株式の短期的な変動に振り回されず、長期的な視点に立った経営に取り組みやすい環境が整いつつあるといえる。
▼平均保有期間の計算方法 株式は個人の年度累計の売買代金を、個人が保有する株式の時価総額(東証などの「株式分布状況調査」を使って算出)で割って売買回転率をはじいた。14年度は1.36倍で、個人株主がすべて入れ替わるのに8.9カ月かかる計算で、これが平均保有期間に相当する。投信は解約額を純資産残高で割った値から保有期間を求めた。