【ジュネーブ=原克彦】国際労働機関(ILO)は19日発表した2015年版の「世界の雇用・社会見通し」で、正規雇用と非正規雇用の賃金格差を是正すれば世界で3兆7千億ドル(約440兆円)の経済効果があるとの試算をまとめた。非正規雇用の拡大で賃金が抑制された結果、消費が抑制され投資も冷え込んだとし、各国に安定雇用の推進を求めている。
ILOは、フルタイムで継続雇用されている労働者を正規雇用とし、それ以外のパートタイムなどを非正規と定義付けている。賃金格差の合計は2008年には1580億ドルだったが、金融危機後に急拡大し、13年は1兆2180億ドルに達した。雇用の正規化で格差を埋めれば需要不足が解消されるほか、投資を刺激するなどの乗数効果も生まれ、世界の国内総生産(GDP)を3.6%押し上げるとしている。税収増にも貢献する。
ライダー事務局長は非正規雇用の正規化について「理想論ではない。この分野で(政策の)行動の余地はある」と訴えた。特に不安定な雇用形態のしわ寄せが女性に向かいがちであることを問題視している。
世界の労働者に占める正社員の比率は26%にとどまる。所得水準の高い国では64%だが低い国では6%で、中間所得国でも14%だ。世界で最も多いのはフリーランスのような雇用形態で働く人で、全体の35%を占める。さらに家業のために無給で働く人が11%いる。途上国では労働契約をしていない労働者も多いという。
正規雇用と非正規雇用の賃金格差は欧州連合(EU)全体を含む先進国で8890億ドルにのぼり、途上国ではアジア太平洋が1490億ドルで最大だ。途上国では経済発展に伴い徐々に正社員が増えつつあるものの、増加のペースは鈍っているという。