国会で集団的自衛権の行使容認を盛り込んだ安全保障関連法案は合憲なのかを巡る論争が続いている。11日の衆院憲法審査会では各党が見解を表明した。法案審議の最中に、なぜ議論になっているのか。政府や与野党各党はどんな主張をしているのか整理した。
11日午前、衆院憲法審査会で発言する自民党の高村副総裁(奥右から3人目)
Q 議論のきっかけは。
A 4日の憲法審に参考人として出席した憲法学者3人が全員、安保法案は違憲と表明した。自民党が推薦した人もいたので波紋が広がった。
Q 政府・与党はどう説明しているのか。
A 政府は9日に発表した統一見解で、集団的自衛権の行使が認められるという2つの根拠を挙げた。一つは1959年の最高裁判決(砂川判決)だ。
Q どんな内容か。
A 米軍立川飛行場へのデモ隊乱入を巡り、在日米軍が憲法違反かどうかが争点になった裁判の判決だ。判決理由で「我が国が必要な自衛のための措置をとりうることは当然」と指摘。最高裁が自衛権行使に関して唯一、下した判断とされる。
Q 集団的自衛権の行使を認めているのか。
A この判決は個別的自衛権、集団的自衛権を区別していない。「自衛権」を認めているだけだ。自民党の高村正彦副総裁はその上で「何が必要かは時代によって変化する」ため、今は個別的自衛権に限らず、集団的自衛権も行使できると主張した。
Q もう一つは。
A 72年の政府見解だ。(1)憲法は「必要な自衛の措置」を認めている(2)自衛措置は「国民の権利が根底から覆される急迫、不正の事態」に「必要最小限度」に限るとした。ただこの見解の結論はあくまで「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」だ。
Q それなのになぜ集団的自衛権行使の根拠になるのか。
A 政府・与党は「我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変化」したため、限定的であれば自衛の措置として集団的自衛権が行使できると説明する。あくまで72年見解の(1)と(2)の基本的な論理は変えていないという立場だ。
Q 野党の反論は。
A 72年見解を巡っては「基本的な論理」が変わらないのになぜ、結論が正反対になるのかと批判している。例えば民主党の辻元清美氏は憲法審で「便宜的、意図的で立憲主義にもとる」と追及した。
Q 最高裁判決は重いのでは。
A 同党の枝野幸男幹事長は、砂川判決は集団的自衛権について問題にしていないと指摘したうえで「論理の一部をつまみ食いしている」と反論した。
Q 憲法学者の意見を与野党はどう受け止めているのか。
A 高村氏は自衛隊の創設時も多くの憲法学者が反対した経緯に触れ「自衛の措置が何であるかを考えるのは憲法学者ではなく政治家だ」と強調する。「安保政策を具体化するのは内閣と国会の責任だ」とも述べた。一方、枝野氏は戦前の言論弾圧をあげ「国を滅ぼす一歩手前まで進んだ」と憲法学者の意見を軽視すべきではないと訴えた。政府や与党の恣意的な判断を認めれば、憲法の理念の「法の支配」を逸脱するとの主張だ。
Q 政府の答弁も不安定だ。
A 中谷元・防衛相は5日の衆院平和安全法制特別委員会で、安保法案について「憲法をいかに法案に適合させていけばいいのかという議論を踏まえた」と答弁。「立憲主義」に背くと追及され撤回した。10日の同委では「時代の背景とともに憲法で許される必要最小限度の武力行使の範囲をこれからも考えていく」と述べ、さらなる解釈変更を想定しているのかと批判を受けた。