政府は11日の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)で月末に閣議決定する成長戦略「日本再興戦略」改訂版の骨子を提示した。「今後は生産性向上による供給制約への対応が課題」と位置づけ、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoT(インターネット・オブ・シングス)やビッグデータ、人工知能などを活用した産業・就業構造の変革を打ち出した。
新たな戦略について、甘利明経済財政・再生相は会議後の記者会見で「昨年までは需要不足をどう補うかが重要だったが、次は競争力を深化させる段階だ」と説明した。
イノベーションの推進では海外の有力大学と競える「特定研究大学」「卓越大学院」「卓越研究員」制度の創設で産官学の連携を強める「イノベーション・ナショナルシステム」をうたった。「ロボット新戦略」の着実な推進も盛り込んだ。
2020年の東京五輪・パラリンピックを意識し「改革2020」も進める。
具体的には(1)次世代交通システム・自動走行技術の活用(2)分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決(3)清掃や警備、道案内をするロボットによる未来社会実現(4)高品質な日本式医療サービス・技術の国際展開――など6つのプロジェクトに重点を置く。外国人訪日客に日本の先端技術をアピールし、輸出につなげる。
サイバー攻撃への対策強化も盛り込む。日本年金機構や東京商工会議所など公的機関や経済団体を狙ったサイバー攻撃が相次ぎ、成長戦略の柱に位置づけていた税と社会保障の共通番号(マイナンバー)制度への不安が高まっているためだ。
甘利経財相は記者会見で「(年金情報の)流出問題の反省を踏まえ、内規違反に対する厳重な対応を含めて再発防止をしっかりする。他の機関の人為的過誤も防ぐ」と強調した。セキュリティー産業の育成や人材の強化を重要政策の一つに引き上げた。
安全策を徹底したうえで、16年1月に運用が始まるマイナンバー制度の活用を予定通り進める。今の計画では税や社会保障、災害対策に限られているが、戸籍や旅券、証券分野にも広げていく。マイナンバーと連動した医療番号制度を設け、重複投薬を防ぐなど医療費の適正化につなげる。
裁判で不当と認められた解雇を金銭補償で解決する制度は、骨子では「予見できる紛争解決システムの構築」と書き込むにとどめた。
戦略全体を見渡すと、法人税率の引き下げなどが盛り込まれた昨年までに比べ、小粒な改革が並んだ印象は否めない。潜在成長率を高めるための具体策が課題となる。