東京電力福島第1原発事故による避難が原因で自殺したとして、福島県浪江町の無職、五十崎喜一さん(当時67)の遺族が、東電に約8700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で福島地裁(潮見直之裁判長)は30日、事故と自殺の因果関係を認め、東電に約2700万円の賠償を命じた。
判決は「原発事故で遭遇した過酷な経験でうつ状態となり、最終的に自死に至らしめた」とした。喜一さんは糖尿病を患っており、病気が与えた影響なども考慮し「事故が自殺に寄与した割合は6割」と指摘した。
原発事故と自殺の因果関係を認め、東電に賠償を命じた判決は昨年8月の福島地裁判決に続き、2例目。東電は「判決内容を精査し真摯に対応していく」とのコメントを出した。
喜一さんの妻の栄子さん(66)、次男の政之さん(38)、孫の貴明さん(21)の3人が訴えた。判決後、栄子さんは「判決そのものよりも、あくまで東電に謝罪してほしい」と述べた。
訴状によると、喜一さんは2011年3月11日の原発事故で、福島県郡山市の高校に避難して以降、食欲不振や不眠の症状を訴えるようになった。同4月13日に同県二本松市のアパートに引っ越したが、食欲不振などの症状はなくならず、東電に提出する賠償請求の書類の手続きにも悩まされていた。また、趣味の釣りや家庭菜園もできなくなり、無気力状態になった。
同7月23日早朝にアパートを出て行方不明になり、翌24日、福島県飯舘村のダム付近で、遺体で発見された。遺族はうつ病などの精神疾患による自殺だとして「原発事故さえなければ元気に生活していた」と主張。
東電は、自殺の要因について「事故以外の原因も考慮するべきだ」などとして争っていた。〔共同〕