2010年代の後半に入った今、欧州連合(EU)が3本の断層線に沿って分裂しつつある。1本は、裕福な北と債務を抱えた南を分けている。2本目は欧州統合に懐疑的な周縁国と欧州統合を支持する中心国を隔てている。3本目の断層線は社会的にリベラルな西と独裁色を強める東の間に走っている。これは分裂と崩壊の現場だ。
アテネ近くの海岸で古ぼけたEUの旗とギリシャ国旗がはためいていた。ギリシャは2015年、ユーロ離脱の一歩手前の状況に陥った=AP
2016年について具体的な予想をするのは難しい。もちろん、既知のリスクはたくさんある。EU加盟に関する英国の国民投票。着実に流れ込む難民。拡大する経済的不均衡。ギリシャのメルトダウン。ほぼ支払い不能状態のイタリアの銀行システムと、財政政策を巡り、ドイツとユーロ圏周縁諸国の間で生じようとしている緊張。ジハード(聖戦)主義者のテロ。スペインとポルトガルの政治的不確実性。解決とはほど遠いウクライナ危機。人々の意識からは薄れたが、欧州大陸にまだ残っている産業力の支柱の一つを損なう恐れのあるフォルクスワーゲンの排ガス不正スキャンダル――。
■従来のやり方が一番危険
これだけ多くの危機が同時に進行しているため、大きな構図を見た方が有益だと筆者は考える。具体的にどれか一つの危機ではなく、これほど多くの危機と同時に対峙することから生じるシステミックリスクに目を向けるのだ。
一歩離れてみると、あまたの危機はそれほど偶発的なものに見えなくなる。共通の経済機構、財政政策、法制度がない通貨同盟を創設したら、いずれ壁にぶつかるのは確実だ。同じように、共同の沿岸警備隊と国境警備隊がなければ、パスポートなしで移動できる通行地域は永続し得ない。
ここにあるパターンが見える。EUには、ひどい妥協と、順境に向いた構造に傾く生得的な傾向があるのだ。この問題がずっと多くの人にとって明白になったことを除くと、昨年、根本的なことは何一つ変わらなかった。
それでも断裂が生じたときには、人はやはり衝撃を受けるかもしれない。だが、断裂は好機ももたらす。筆者は、EUが犯し得る最大の過ちは、旧来のやり方をそのまま続けることだと思っている。大きな変化は、政治家と外交官からというよりも、英国で近く行われるような国民投票を通じて有権者から直接強いられる可能性の方が高い。EUのプロセスには、唐突な方向転換を避ける傾向がある。各国の首都からの圧力が強すぎるようになったときに初めて、物事が崩れるのだ。