リニア中央新幹線の駅建設のため、公社に委託する前にJR東海が取得した土地。後方は駅前の高層ビル=名古屋市中村区則武2丁目
リニア中央新幹線の名古屋駅建設に向けた用地買収が、複雑な権利関係などに阻まれ難航している。2018年度中には更地にしないと、27年の開業に影響しかねない。JR東海から委託を受けた名古屋市の外郭団体「名古屋まちづくり公社」は4月、スタッフを大幅に増やして交渉を急いでいる。
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「電話1本くらいできるだろ。どかされる身になってみな」
3月末、訪ねてきた公社の職員に、駅西側の地権者の40代男性は思わず怒りをぶつけた。昨年6月に地元の小学校で説明会があり、その後、「年明けすぐに来ます」と言われていたのに、何の音沙汰もなかったからだ。「当事者なのに新聞からしか情報がわからない。そういう対応が不安にさせる」。この日、ようやく測量について話があった。
買収対象は、名駅の東西にまたがる約2万3千平方メートル。JRから地権者との交渉の委託を受けた公社は、2015年度中に測量を終える予定だったが、手間取っている。
過去に例のない都心部での大規模な用地買収は、想定外の連続だった。立ち退いてもらう地権者は、登記簿上では約120人。ところが、実際には相続や譲渡で所有が複数人にまたがっていたり、引っ越していたり……。「(権利関係者は)横にも縦にも広がり複雑」と公社の担当者。いまだ、連絡がとれない地権者もいるという。
テナントも飲食店、オフィスと多様なため、補償金額の算定に必要な売上金などの調査も難航。支店であれば、本社に出向くことも。海外資本の会社もあり、時間がかかっている。
これから具体化する補償金の交渉への懸念も尽きない。名駅周辺の公示地価は全国有数の上昇率で、今年はリーマン・ショック前並みまで回復。「値上がりを期待して売り渋る地権者が出るのでは」と公社の担当者は心配する。
買収完了の期限までは、あと3年。遅れを取り戻そうと、公社は16年度、担当職員を32人から52人に増員。いずれも道路やダム建設などで、買収交渉の経験のある名古屋市や愛知県の職員を集めた。
さらに、テナントや借家人に対する交渉について建設コンサルタントなど10社の企業体に委託した。企業体では公務員OBも雇い、100人超の態勢で交渉を進める。公共事業が減って経験豊富な現役職員が減っているうえ、東北の復興事業や東京五輪の関連工事で買収交渉の需要が増えて人材の取り合いになっているため、OBや民間の力も借りることにした。
JR東海の柘植康英社長は6日の記者会見で「密集した場所で、そう簡単に進むということではない」と認識を示した。公社の担当者は「残りの期限を考えると、今年が正念場。金額提示や生活再建の相談など、地権者にも納得してもらえるよう対応したい」と話している。(中村真理)