『怪物君』の前で語る詩人の吉増剛造氏=東京都千代田区、堀英治撮影
「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」――。そう題した異色の「個展」が東京国立近代美術館で開催中だ。いま詩の世界で吉増ブームが起き、著書の刊行も相次ぐ。だが、その作品は難解で、2ミリ程度の極小文字を使うなど、判読不能な原稿もある。なぜ人気なのか。
『怪物君』の出発点となった吉増剛造の詩
詩人・吉増剛造、77歳。原稿用紙に2ミリ四方の極小文字や、文字をつなげた記号を刻む。上から赤や青、黄のインクを垂らす。個展でガラスケースに並ぶ原稿群は華やかな色彩を放つ。
現代詩の世界で、吉増は谷川俊太郎と双璧だ。若き日の代表作『黄金(おうごん)詩篇(しへん)』(1970年)では、宇宙的な時空を舞台に幻想的な世界を描き出した。
ぼくは/時間の大伽藍(だいがらん)をひとめぐりして/純金の笛になって帰還するよ
だが年を重ねると共に表現は先鋭化する。最新詩集『怪物君』(2016年)では、例えばこんな一節。
アリス、アイリス、赤馬、赤城、/イシス、イシ、リス、石狩乃香(イシカリノカ)、/兎(ウッ)! 巨大ナ静カサ、乃、宇(ウッ)!
意味を考え始めた読者は頭を抱えることになる。しかも、これらの詩句にはルビや傍点などの記号、大量の脚注がつく。約2ミリ四方の極小文字が並ぶページもあり、版元のみすず書房は「組み版の限界に挑戦した」(担当者)と振り返る。