ラベルや名称を考案した「天弓」を前にするボブ田中教授(後列中央)と学生=山形市
悩める地場の伝統産業に若者の発想を吹き込み、ヒット商品を作った大学があります。山形発の新たな日本酒ブランドを生んだのは、20歳の学生たちでした。
「若い人に飲んでもらえる日本酒のラベルを作ってもらえないですか」。2011年春、山形県南陽市で120年続く「東(あずま)の麓(ふもと)酒造」の新藤栄一製造部長(54)が酒席でそう漏らした。相手は、酒蔵見学で来た東北芸術工科大(山形市)の教員たちだ。
国税庁によると、日本酒の消費数量はピークだった1975年ごろの3割あまり。東の麓酒造も主な顧客は中高年で、「若い層に売れないと未来はない」と考え、県産ブランド米「つや姫」を使った新商品を計画していた。奇抜なラベルで若者の話題になれば――。そんな狙いだった。
協力したのは、自らも商品やブランド開発などを手がける企画構想学科のボブ田中教授。「若者に受ける派手なラベルに」と言う新藤さんに、「誰も買いませんよ」。見栄えや聞き心地の良さだけでなく、特徴が伝わる名称や、買い手の心を動かす「物語」が必要と考えた。希望した同科とグラフィックデザイン学科の学生ら15人と、授業外の活動として始めた。
新藤さんは、酒蔵に通って来る学生らの発想に驚いた。つや姫の特性から「温かくても冷めてもおいしい」という新酒のコンセプトを提案され、それに沿う商品名やラベルが考えられることに。「酒屋では買わない」という学生の意見から、コンビニでも手軽に買える小ぶりな300ミリリットル瓶にし、価格も500円に抑えた。
狙いも「若者が初めて口にする日本酒」と明確化。香りを抑え、後味の残らない飲みやすさを目指した。ついた商品名は「つや姫なんどでも」。冷やでも燗(かん)でもうまい「温度」と、繰り返し楽しめる「何回でも」という二つの意味だ。