朝日新聞社は、甚大な建物被害が出た熊本地震を受けて、各原発の5~30キロ圏にかかる21道府県と135市町村にアンケートした。国の原子力災害対策指針で重大事故時、原発から5キロ圏内の住民が優先避難し、5~30キロ圏の住民は原則「屋内退避」と定めていることに対し、茨城県など71自治体が「不安はある」と答え、静岡県や京都市など37自治体が指針を「見直す必要はある」と答えた。
5~30キロ圏の住民は屋内退避の後、放射性物質の放出状況に応じて段階的に避難する。ところが4月の熊本地震では、多くの家屋や道路が損壊し、余震も続いた。滋賀県が5月、「地震との複合災害で屋内退避は非現実的。30キロ圏外への避難の検討が必要」と国に指針の見直しを提言するなど、複合災害への不安は強まっている。
アンケートで屋内退避について問うと、新潟県、松江市、佐賀県伊万里市など71自治体が「不安はある」と回答。「不安はない」は22自治体だった。不安の具体的内容(複数回答可)は、56自治体が「建物被害が多発している時の対応」を選んだ。
国の指針を見直すべきか問うと、長崎県、新潟県柏崎市、茨城県那珂市、福井県小浜市、愛媛県八幡浜市、長崎県平戸市など37自治体が「必要はある」と回答。「必要はない」は13自治体だった。64自治体は「わからない」を選んだが、その中には「最も有効な防護措置を検討し、必要な見直しを望む」(宮城県登米市)など、何らかの対応を求める意見も少なくなかった。
避難道路などインフラの整備状況では、茨城県、富山県、青森県むつ市、新潟県燕市、福井県美浜町、愛媛県大洲市、佐賀県玄海町など69自治体が「整備は足りずに課題がある」と回答。「問題ない」は12自治体だった。
避難計画は123自治体が策定し、茨城、静岡両県内を中心に26自治体は「策定中」「ない」と答えた。
複合災害をめぐっては、7月の鹿児島県知事選で、九州電力川内原発の安全性を再点検して避難計画の妥当性を検証すると訴えた三反園訓(みたぞのさとし)知事も初当選した。様々な動きに対し、原子力規制庁の担当者は「地域ごとの取り組みを縛ることは最小限にしたい。特段、指針の見直しは検討していない」と答えた。
アンケートは6月中旬に送り、7月中旬までに福井県を除く155自治体が回答。大部分が5キロ圏内の静岡県御前崎市、愛媛県伊方町、新潟県刈羽村、茨城県東海村の4市町村は、全住民が即時避難すると答えたため集計から除き、151自治体を分析対象とした。(神元敦司)
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〈原子力災害対策指針〉 いまの指針は2012年10月末に策定された。東京電力福島第一原発事故で想定が甘かったことを踏まえ、原発から0~5キロ圏を即時避難する区域に定め、8~10キロ圏だった重点区域を30キロ圏に拡大。5~30キロ圏の住民は屋内退避の後、段階的に避難する。5~30キロ圏の多くの人が車で避難すると渋滞し、より原発に近い住民の避難に支障をきたす恐れがあるためだ。ただ、原発の単独事故を想定し、周辺地域の避難路や橋、建物の損壊は考慮していない。
原子力災害時の「屋内退避」の対応に不安を感じるか。
①「不安はない」=22
【道府県】北海道、山口県、愛媛県、鹿児島県
【市町村】北海道=泊村、岩内町、神恵内村、倶知安町、古平町、青森県=むつ市、野辺地町、茨城県笠間市、福井県=敦賀市、美浜町、高浜町、京都府伊根町、鳥取県米子市、山口県上関町、愛媛県大洲市、佐賀県玄海町、長崎県佐世保市、鹿児島県薩摩川内市
②「不安はある」=71
【道府県】茨城県、新潟県、静岡県、滋賀県、鳥取県
【市町村】北海道=ニセコ町、積丹町、仁木町、余市町、青森県=六ケ所村、宮城県=石巻市、登米市、涌谷町、美里町、福島県=大熊町、浪江町、富岡町、広野町、楢葉町、川内村、いわき市、葛尾村、飯舘村、新潟県=柏崎市、小千谷市、見附市、燕市、茨城県=那珂市、ひたちなか市、常陸太田市、常陸大宮市、城里町、茨城町、大洗町、高萩市、鉾田市、静岡県=牧之原市、菊川市、掛川市、袋井市、藤枝市、島田市、石川県=羽咋市、かほく市、宝達志水町、中能登町、福井県=小浜市、鯖江市、越前市、越前町、滋賀県=長浜市、高島市、京都府=京都市、福知山市、綾部市、宮津市、南丹市、京丹波町、島根県=松江市、出雲市、安来市、雲南市、愛媛県=八幡浜市、西予市、伊予市、福岡県糸島市、佐賀県=唐津市、伊万里市、長崎県松浦市、鹿児島県日置市、さつま町
③「どちらでもない」=40
【道府県】宮城県、福島県、福岡県、長崎県
【市町村】北海道=共和町、寿都町、赤井川村、青森県=東通村、横浜町、宮城県=女川町、東松島市、南三陸町、福島県=川俣町、田村市、南相馬市、新潟県=長岡市、上越市、十日町市、出雲崎町、茨城県=日立市、大子町、静岡県森町、石川県=志賀町、七尾市、輪島市、福井県=おおい町、南越前町、池田町、福井市、若狭町、京都府舞鶴市、鳥取県境港市、愛媛県=宇和島市、内子町、長崎県=平戸市、壱岐市、鹿児島県=いちき串木野市、阿久根市、姶良市、長島町
④無回答=18
【道府県】青森県、富山県、石川県、京都府、岐阜県、島根県、佐賀県
【市町村】北海道蘭越町、福島県双葉町、茨城県水戸市、静岡県=吉田町、焼津市、磐田市、富山県氷見市、石川県穴水町、岐阜県揖斐川町、鹿児島県=鹿児島市、出水市
「屋内退避」を基本的な防護措置としている原子力災害対策指針を見直すべきか。
①「見直す必要はある」=37
【道府県】茨城県、新潟県、静岡県、富山県、滋賀県、島根県、長崎県
【市町村】北海道=ニセコ町、仁木町、宮城県美里町、福島県=大熊町、川内村、いわき市、葛尾村、新潟県=柏崎市、見附市、茨城県=那珂市、常陸太田市、茨城町、大子町、鉾田市、静岡県=牧之原市、掛川市、袋井市、藤枝市、富山県氷見市、福井県小浜市、京都府=京都市、宮津市、南丹市、京丹波町、島根県安来市、雲南市、愛媛県八幡浜市、佐賀県伊万里市、長崎県平戸市、鹿児島県さつま町
②「見直す必要はない」=13
【道府県】宮城県、愛媛県
【市町村】青森県=むつ市、野辺地町、静岡県島田市、石川県宝達志水町、福井県=敦賀市、高浜町、島根県出雲市、愛媛県=大洲市、伊予市、佐賀県唐津市、長崎県佐世保市
③「わからない」=64
【道府県】福島県、鹿児島県
【市町村】北海道=泊村、寿都町、積丹町、古平町、赤井川村、青森県=東通村、六ケ所村、横浜町、宮城県=女川町、登米市、東松島市、涌谷町、南三陸町、福島県=浪江町、富岡町、広野町、楢葉町、川俣町、田村市、南相馬市、飯舘村、新潟県=上越市、小千谷市、十日町市、燕市、出雲崎町、茨城県=ひたちなか市、常陸大宮市、城里町、笠間市、静岡県=菊川市、森町、石川県=七尾市、輪島市、羽咋市、中能登町、福井県=おおい町、南越前町、鯖江市、越前市、越前町、池田町、福井市、滋賀県=長浜市、高島市、京都府=福知山市、綾部市、伊根町、鳥取県=米子市、境港市、松江市、愛媛県=西予市、宇和島市、内子町、福岡県糸島市、佐賀県玄海町、長崎県=松浦市、壱岐市、鹿児島県=いちき串木野市、日置市、姶良市、長島町
④無回答=37
【道府県】北海道、青森県、石川県、京都府、岐阜県、島根県、山口県、福岡県、佐賀県
【市町村】北海道=共和町、岩内町、神恵内村、蘭越町、倶知安町、余市町、宮城県石巻市、福島県双葉町、新潟県=長岡市、茨城県=日立市、水戸市、大洗町、高萩市、静岡県=吉田町、焼津市、磐田市、石川県=志賀町、かほく市、穴水町、岐阜県揖斐川町、福井県=美浜町、若狭町、京都府舞鶴市、山口県上関町、鹿児島県=薩摩川内市、阿久根市、鹿児島市、出水市