「職業がんをなくす患者と家族の会」の会合で語る田中康博さん=10月、福井県坂井市
福井労働基準監督署は21日、発がん性物質「オルト・トルイジン」を扱う三星(みつぼし)化学工業(東京)の福井工場(福井市)で働いて、膀胱(ぼうこう)がんを発症した男性7人について労災を認定した。専門家による厚生労働省の検討会が、工場での業務が発症の有力な原因となった可能性が高いと判断した。厚労省によると、オルト・トルイジンによる健康被害での労災認定は初めて。
7人は、同工場で化学製品の製造を担当していた40~70代の従業員と元従業員。厚労省の調査によると、7人はオルト・トルイジンに素手で触ったり、夏場に半袖で業務をしたりしていた。皮膚から体内に取り込まれたと推察されるという。業務期間は5人が10年以上、2人が10年未満だった。
従業員に膀胱がんの発症が相次いだことから、厚労省が昨年から同工場の調査を開始。今年6月に医学や労働衛生工学などの専門家6人で構成する検討会を作り、オルト・トルイジンと発症の因果関係について調べていた。
検討会はこの日まとめた報告書で、オルト・トルイジンにさらされる業務に10年以上従事した人で、発症までの潜伏期間が10年以上あった場合は「業務が有力な原因となった可能性が高い」と指摘した。従事した期間や潜伏期間が10年未満の場合は、作業内容や発症時の年齢などを総合的に勘案する必要があるとした。
そのうえで、検討会は7人の作業状況を検討。いずれも業務と発症の間に因果関係がある可能性が高いと認めた。
厚労省によると、これまでに国内でオルト・トルイジンの使用が確認された事業場は59カ所。今回労災認定された7人を含め10事業場で計24人が膀胱がんを発症しており、男性2人が労災申請している。(河合達郎)