国際女性デー 各地で
性別にとらわれず、自分らしく生きられる社会を目指すには。3月8日の国際女性デーに合わせ、朝日新聞デジタルや朝日新聞夕刊での著名人インタビュー連載、女性関連の記事を発信してきた企画「Dear Girls」へ、読者からも様々なメッセージが寄せられました。連載に登場した安冨歩・東大教授の話とともに、紹介します。
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国際女性デー特集「Dear Girls」
■「やりたくないこと、やらない」
多くの人が日本で自分の「性別」ゆえの生きにくさを感じるのはなぜか。どうすればその「呪い」から解放されるのか。50歳で女性装を始め、ようやく自分らしく生きられるようになったという東大東洋文化研究所の安冨歩教授に、これまでの議論を踏まえて語ってもらいました。
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男性は戦場で戦い、女性は銃後を守る。そんな性別役割分業が戦時中に確立し、戦後むしろ形を変えながら強化され、世界一の経済成長を遂げた日本。性分業を前提に社会システムが作られたため、人々の性別による偏見は固定化され、高度成長がとっくに終わった今でも再生産され続けています。
一家の大黒柱、いいお母さん……。みんな必死に「立場上の役割」を演じ、立場を離れた自分である時間は、職場でも家庭でも地域でもほとんどない。その結果、男女は明確に区分されつつ、平等につらく、生きにくい社会になっているのではないでしょうか。
システムに支配されないためには、システムの中にいる私たちが立場に縛られず、自分自身となることです。そして、一人ひとりがその場でシステムの要求に従わないようにするしかありません。「しないといけない」とプレッシャーを感じることは、しない。そして、「したい」と思うけど足がすくむようなことは、やるのです。
たとえば、「専業主婦だから掃除しなきゃいけないのに、自分はできていない」と思って胸が苦しくなるなら、掃除なんてそこまでしなければいいんです。子どもが朝、「学校がつらいので行きたくない」と言ったら、システムの要求にこたえて学校に行かせるのではなく、「いいよー、寝てな」と言ってあげるとかね。職場でこれはおかしいと思うことがあったら、同じ思いの同僚たちと一斉に休暇を取ってみたらどうでしょう?
システムを変えるには、ものすごいエネルギーがいります。でも、小さなボイコットが多発すれば、システムは作動不良を起こし、違う方向に動き出すんです。
システムにがちがちに組み込まれている男性より、「無縁者」である女性の方が動きやすい。自分の心の声を信じて、「やりたくないことはやらない」を実行してください。それだけで生きやすくなるはずです。自分自身にとってだけではなく、男性を含む周りの人、そして次代を生きる女の子たちにとっても。(聞き手・杉山麻里子)
■「自分を縛る鎖を外して」
国際女性デーに向けての記事に、考え込み、複雑な思いを抱いた人は多かったようです。寄せられた声からは、みんなに生きやすい社会に向けた課題が少しずつ見えてきます。
北海道で1歳の長女を育てる主婦(28)は、駒崎弘樹・フローレンス代表理事の「女の子を拘束する呪い」の記事に感想を寄せました。
「結婚しました。子ども生まれました。仕事退職しました。家事に子育てに追われています。長男の嫁だから、行く行くは旦那の実家の近くに住みます。これが普通、これが当たり前」。そう思う自分は「呪い」にかかっているのか。その思いが、娘の将来へとつながります。
「子どもには『なりたいものになっていい』と言ってあげたい。でも、結婚したら、自分と同じように姓が変わり、旦那さんの家のお嫁さんになるんですよね。自由を縛る鎖はないと伝えたいですが、そのためには、まずは自分を縛っている鎖を外していかなければ」
大阪府の専業主婦(43)は「『かわいいね』と言われる時こそ甘えずに」という小池百合子都知事のインタビューを読み、複雑な気持ちになったそうです。「かわいいね、と言われて過ごす期間は皆無だった半生。甘えず頑張ってきたつもりですが、多くの人に共感される頑張りが出来る人間が理想なんでしょうか?」
大卒後、就職した会社で働き続けるつもりでしたが、妊娠経過が悪く欠勤が続き、上司から「いつやめるって言ってたっけ?」と促されて退職。おなかの子どもは助かりませんでした。後に2人の子に恵まれましたが、ひとりには発達障害があり、仕事との両立は難しいといいます。
「今更『活躍』と言われても、ハンディキャップのある子育てを支えてくれる社会ではない。何をどうしたら活躍とみなされるのかも分からない」
宮城県の会社員の女性(25)は、両親、兄2人の5人暮らし。持病を抱えつつ仕事をしていますが、母親が入退院を繰り返すようになったため家事を一手に引き受けることに。体調不良で仕事を休んだ日も、父に「夕食は」と聞かれ、「具合が悪くても女の私が作らなきゃいけないのか」と傷ついたといいます。「手伝って」という言葉は父親には届かないと思います。
「女の人が家事をするという概念を壊すことは不可能に近いとさえ思う。兄たちも父の背中を見ているから同じ。私がもし家庭を持って子どもができたら、女だから、男だから、という呪いをかけないようにしたい」
愛知県の大学講師の女性(47)は「やりたいことは何でもやりなさい、応援するから」という父親の言葉を受け、したいことは何でも挑戦してきたと言います。しかし結婚した相手から常に言われた言葉が「女のくせに」でした。
言われるうちに「そうあるべきだ」と思うようになり、苦しい時期を過ごしました。男女が家事や育児、仕事を分け合い、支え合い、収入もシェアする夫婦のほうが幸せなはず。これから大人になる女の子たちへ次のように言います。
「女のくせに、という呪いから逃れたくても、自分に経済的な支えがないと、呪縛から自由にはなれません。女の子が幸せになるためにも、自分の仕事は、ずっと続けてほしい」
男性も思いを寄せてくれました。「背が低く童顔で声は高め」という東京都の会社員(27)は「世間が求める男性像に追いつけず、苦しさを感じてきた」といいます。弱音をこぼしたら「男らしくない」と言われた経験もあり、悩みの泥沼にはまるたび、その言葉を思い出してしまうそうです。
「女性に対する『呪い』がなくなり、男女が同等に稼ぐのが当たり前になれば、男性も重圧から解放されて自由な生き方を選べるのでは」
「キャンペーンの趣旨と正反対の本音が、私の中にあります。もっとみんなみたいな『普通の女子』になれてたら、今頃こんな息苦しさは感じてなかったかも……」
神奈川県に住むフリーランスの女性(41)は小学生の頃、男子のいたずらに女子が「○○君、やめてー」と言いつつその場を離れないのを「茶番」と感じていたといいます。大人になって彼氏ができず不安になり、男性を立てるような言動に変えるとモテましたが、その男性には魅力を感じられませんでした。
同世代向けの情報は既婚や子育て中が前提のものばかりで「私は世間的には想定外の状態なんだ」と感じるそうです。「私も誰かに守られて生きたい」という本音は隠し、仕事も趣味も充実している自立した女性のふりをしているといいます。「心の中はいつも涙があふれる寸前だけど」
■「言わせて」は懇願では
企画への批判の声もありました。
ツイッターで投稿を呼びかけるため、「#女子だからって言わないで」「#女子にも言わせて」のハッシュタグを作りました。若い世代を想定し、普段発言を控えたり、抑えられたりしている人たちが意見を言う機会にしたいと考えました。
多くの意見がツイートされた一方で「女言葉を捨てたい。懇願したくない」「いつまで女性は下から見上げてお願いさせられるんだろう。女性に言わせろ、男は黙ってろくらいのニュアンスが欲しい」「性差別の原因に切り込まない及び腰の姿勢」などの批判もありました。「女子」という呼称を選んだことを「軽薄」と指摘する声もあったほか、「にも」というのが女性を軽視する表現だ、「言わないで/言わせて」が懇願しているように響く――など、言葉遣いへの意見もありました。
企画名に「Girls」(女の子)を入れたことについて、「Ladies」や「Women」にしなかったところに、女性差別に正面から向き合っておらず「逃げ」が見える、などの批判もありました。
■取材班も自分と向き合った
女の子が自分らしいと思える人生を歩めるように。そんな思いで始めた「Dear Girls」に、たくさんの切実な声が寄せられました。
数々の投稿に目を通しながら、ある言葉を思い出しました。
「周りの人が私を勝手に『女性』というカテゴリーに入れ、その中で勝手に私の価値を判断しようとする。私は私。ただそれだけなのに」
先週のフォーラム面で紹介した、「社会に出る」という表現への違和感を記者に伝えてきた大学生(21)の言葉です。
企画への批判や違和感も寄せられました。女性を取り巻く状況に対し、様々な思いや受け止め方があると実感すると同時に、取材班の一人ひとりが、自分らしさや自分の生き方と向き合う機会にもなりました。
「Dear Girls」では、様々な人たちの言葉を伝えてきました。次代を担う女の子の一人でも、自分らしく生きることにつながる言葉と出会えていれば幸いです。
私たち自身も、取材を通していまの社会のありようが見えてくることがありました。女性が、ひいてはみんなが生きやすい社会を目指して、日々の取材を続けます。
来年の国際女性デーに、再びお会いできればと思います。(錦光山雅子)
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◆ほかに市川美亜子、山本奈朱香、三島あずさが担当しました。
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