初公判に出廷した野村悟被告=福岡地裁、絵と構成・宮崎志帆
指定暴力団工藤会(本部・北九州市)のトップで総裁の野村悟被告(70)を捜査当局が所得税の脱税容疑で立件したことは「暴力団の捜査史上画期的で、資金面で大きな打撃を与えた」(警察幹部)とされる。今後、ほかの幹部や別組織の首脳への適用が期待されるが、容易ではなさそうだ。
工藤会トップ、起訴内容を否認 上納金脱税事件の初公判
このため警察は、国税当局と連携して約40年前に始めた「課税通報」や、犯罪被害の賠償責任をトップに負わせる仕組みの活用を進め、暴力団の資金枯渇に挑む。
●「好条件重なった」
捜査関係者によると、野村被告を脱税容疑で逮捕できたのは「好条件が重なったため」という。傘下組織からの上納金や企業からのみかじめ料を管理する「金庫番」の存在を突き止めた▽この金庫番がカネの出入りを詳細に記録していた「帳簿」を見つけた▽不正に隠した資産である「たまり」を見つけた、などがそれだ。
脱税の「傍証」も捜査でつかんだという。捜査関係者によると、野村被告は駐車場経営にもかかわっていたが、こちらの所得に関する税務申告は適正になされていたという。警察幹部は「税務申告をめぐる当局の介入を警戒していた証し」とみる。
さらに野村被告が隠したとされる所得の使途についても親族らへの送金など私的なものと解明したことで、野村被告側が「組の運営に使った。私的流用はない」と主張しても、これを覆せるという。
脱税事件で有罪が確定すると、懲役刑のほかに罰金が科されることが多い。国税当局による税務調査もあり、ペナルティー分を含めた税金の納付が課される。捜査関係者は「野村被告は国税から8億数千万円の納税を求められた模様だ」と話す。これとは別に野村被告の口座にあった約8億円が国税当局に差し押さえられたという。
これまで主に検察が担ってきた脱税の摘発を、検察や国税の協力を得ながらも警察が主体となって実行したことに、警察幹部は「脱税捜査のノウハウを得た。今後の暴力団捜査に弾みがつく」と評価する。だが別の幹部は「今回のように好材料がそろうことは極めてまれ」と、今後の摘発に悲観的だ。
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