日体大の柔道場で練習する阿部一二三(右)=長島一浩撮影
柔道の国内唯一の国際大会「グランドスラム東京」(朝日新聞社後援)が12月2日、東京体育館で開幕する。日本勢は男女56選手が出場。この夏の世界選手権で優勝した日本選手が今大会も制すれば、来年9月の世界選手権(アゼルバイジャン)の代表に内定する。今年の世界王者が早々に次の代表切符もつかむか、ライバルがそれを阻むのか。
注目は男子66キロ級の阿部一二三(日体大)だ。世界制覇から約3カ月。初優勝した世界選手権以来となる国際大会に臨む。世界選手権は6試合中5試合で一本勝ちし、ほぼ完勝で頂点に駆け上がった。10月に学生の大会に出場したが、今回が事実上の凱旋(がいせん)試合。「世界チャンピオンらしく、阿部は強いという姿を見せたい」と意欲を見せる。
世界選手権の優勝者が持つ「特権」も大きなモチベーションになっている。世界選手権に続きGS東京も優勝すれば、翌年の世界選手権の出場権が得られる制度が今回から導入される。従来は春の全日本選抜体重別選手権が代表の最終選考会だったため、世界選手権に向けた準備時間が約4カ月も増えることになる。
「一人で外国に行きたい。できれば欧州もアジアも」。単身で異国へ武者修行に出て、英語を勉強しながら現地の道場で稽古する。GS東京で優勝すれば、そんな計画が頭にある。「英語ができれば、海外のメディアに自分から発信できる。柔道選手として幅が広がると思う」
「anan」で鍛えた体を披露
世界王者になって注目度は一段と高まった。ファッション誌「anan」(マガジンハウス、11月1日号)の取材では柔道着を脱いだ姿の写真撮影を頼まれ、鍛えた上半身を披露した。「恥ずかしいですけど、色々な人が柔道に興味を持ってくれれば、もっと日本の柔道が盛り上がる。それぐらいはやったるか、という感じ」。柔道界を引っ張るには「僕らのような若い選手が盛り上げないといけない」と自覚する。
男子60キロ級で五輪3連覇を果たした野村忠宏さん(42)だけは目標とする存在だ。野村さんを超える、五輪4連覇が夢。「世界選手権で初優勝して、3年後の東京五輪でどう戦うかが見えてきた。このまま突っ走りたい」。思い描く2018年にできるかどうか。2日に登場するGS東京で試される。(波戸健一)
男子73キロ級はハイレベルな戦いに
世界の柔道家が憧れる五輪王者と、遅咲きの世界王者。男子73キロ級は代表を争う好敵手が顔を合わせ、ハイレベルな戦いになりそうだ。リオデジャネイロ五輪金の大野将平(旭化成)が久々に実戦復帰。4月に無差別の全日本選手権に出場したが、国際大会は五輪以来になる。大野が不在だった今年の世界選手権で初優勝した26歳の橋本壮市(パーク24)が、最強のライバルにどこまで迫れるか。
女子52キロ級は世界選手権を制した志々目愛(了徳寺学園職)と2位の角田夏実(同)に、17歳の阿部詩(兵庫・夙川学院高)が挑む。女子48キロ級は世界女王の渡名喜風南(帝京大)を、リオ五輪と世界選手権で続けて銅メダルに終わっている近藤亜美(三井住友海上)が止められるか。
世界選手権で振るわなかった男子100キロ超級は、王子谷剛志(旭化成)が巻き返しを狙う。今大会は五輪2連覇中のテディ・リネール(仏)が出場せず、リオ五輪銀の原沢久喜(日本中央競馬会)もオーバートレーニング症候群で欠場するため、確実に結果を残したい。
この夏の世界選手権の優勝者は、阿部、橋本、渡名喜、志々目のほか、男子60キロ級の高藤直寿(パーク24)、女子70キロ級の新井千鶴(三井住友海上)の計6人が出場。男子100キロ級のウルフ・アロンは右胸のけがで欠場する。