新聞でつくったジャケットを羽織り、授業でつくったまわしよみ新聞を発表する児童=6月13日、兵庫県養父市の建屋小学校、渡辺元史撮影
気に入った新聞記事を切り貼りして壁新聞をつくる「まわしよみ新聞」が、学校の授業で広がりつつある。様々なニュースに触れて社会の動きを知ることに加え、グループで取り組むことで対話が促されることがポイント。自分の意見を伝えるとともに、相手の考えも理解するコミュニケーション力を育む効果が注目されている。
「この記事はあるといいな」「写真だけでもいいかも」。兵庫県加古川市の県立農業高校。切り抜いた記事のレイアウトをめぐり、意見が飛び交う。6月、「国語表現」の選択授業であった「まわしよみ新聞」の様子だ。
同校では初の試み。この日は3年生23人が3~4人ずつの班に分かれ、15分の「新聞まわしよみタイム」から開始。持ち寄った新聞を読み、「とっておき」の記事や広告、写真を1人二つ探してハサミで切り抜いた。
続いて10分の「プレゼンタイム」では、班内で各自が選んだ記事を紹介し合う。「これ、おもしろいね」とつい話が弾むが、教師からは「新聞には締め切りがあります。時間厳守で」という指示も飛ぶ。
次は35分の「新聞編集タイム」。縦約80センチ、横約50センチの白い紙をテーブルに広げて臨んだ。写真を大胆に採用する班が多い。貼った記事には「行ってみたい!」「食べたい!」と感想を書き込んで完成となった。
今度は「読者」になって各班の新聞を見て回る。「個性的」「カラフルで見やすい」など、「投書」として意見をふせんに書いて別の紙に貼って一覧できるようにした。
竹内愛幸(あゆ)さん(18)の班は日本農業新聞の記事を貼って、「学びを生かした内容」などと注目された。「自分が選んだ記事だけでは視野が狭いと感じた。他の人の記事や感想が参考になった」。笹本悠真さん(17)の班はたばこの広告を「さわやかすぎる!」と紹介して反響が相次いだ。笹本さんは「様々なジャンルの記事を深く読んで発見があった」と話した。
沢原宏希教諭(31)は「新聞を使って対話を深め、一方通行ではなく他者と意見交換をしながら一つのものを作り上げる体験が大切だ」と話す。
6月に授業でまわしよみ新聞を実施した立命館宇治高校(京都府宇治市)の杉浦真理(しんり)教諭(54)も、「様々なメディアに触れる機会になるとともに、生徒のコミュニケーションが促される効果がある」。
まわしよみ新聞は各世代で取り組みが広がる。兵庫県養父市の建屋小学校は6年生の総合学習で取り入れる。記事を読み比べ、その感想を紹介し合うことで、自分と違う意見を持つ人に触れるという狙いだ。
6月の授業で、藤原璃人(りひと)君(11)は昆虫入りのハンバーガーの記事を「食べてみたい」と紹介した。友だちからは「えー」という微妙な反応もあったが、「色々な記事があることを知った。ニュースをしっかり見ようと思う」と話した。
関西大学(大阪府吹田市)では5月、国語の教員を目指す学生に向けた講義で実施し、23人が参加した。実際の授業例として体験してもらう意図もあり、講師を務めた大阪府立北野高校の桝井英人教諭(55)は「学生にとっても、様々な意見や見方を知ることで、国語を教える上で必要な表現力や多角的な視点を身につけられる」と話した。
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茨城新聞社は昨年度、出前授業でまわしよみ新聞を10件実施した。学校側から「新聞を読む子どもの数が増えた」という報告もあったという。担当者は「グループ内で自然と役割分担が生まれるので、全員が参加できる良さがある」とみる。
こうしたまわしよみ新聞の活動は、イベント企画などを手がける陸奥賢(さとし)さん(40)が大阪市西成区の喫茶店で地元の人たちと新聞を切り貼りする「遊び」で始めたのがルーツだ。2012年にイベントの一環で実施すると反応が良く、有志や市民団体、新聞を教育に活用するNIEに取り組む教員らを中心に広がった。
陸奥さんは「自分が興味や関心を持ったものを使うことは主体的な学びになる。児童や生徒が主役になる実践的な教育ツールとして受け入れられている」と感じている。(渡辺元史、金子元希)
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まわしよみ新聞の実施例(90~100分を想定)
①まわしよみタイム(15~20分)
新聞を読み、「面白いと思った記事」「関心を持った記事」などを3枚程度切り抜く。広告や写真のみも可。
②おはなしタイム(30~40分)
4人程度で1班を作り、切り抜いた記事を各自が発表。選んだ理由を語り、班内で記事について話し合う。
③新聞編集タイム(30~40分)
班ごとに大きな紙(模造紙など)に切り抜いた記事をレイアウトを考えて貼る。記事の脇には出典先の新聞名や簡単な感想を書き込む。
※完成後、意見を交換する時間を設けることもある
※時間が短い場合は切り抜く記事の枚数を減らす
※時間配分は「締め切り」を意識する
(陸奥さんへの取材より)