銀行の店舗が様変わりしつつある。カウンターの向こうに行員がひしめく従来型は減り、少人数の軽量店舗が続々に登場。金融とITを組み合わせた「フィンテック」の活用で、自宅でも店頭と同様のサービスが受けられる「店舗レス」の時代が近づく。技術革新と同時に経費削減という事情も背景にはある。
リビングでモバイル端末を持つ男性の前に、女性の立体映像が現れる。男性が資産運用の相談を始めると、女性はデータを表示させながらアドバイスする。人工知能(AI)を使った相談機能だ。金融商品の決済はデジタル通貨「MUFGコイン」を使う。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が6月末の株主総会で、20年後の銀行店舗の姿として流した映像だ。基本的なサービスはAIで対応し、行員は法人融資などを担う。そうした場面では担当行員が顧客の会社へ赴き、本部の行員も交えて会議を開く。
夢物語のようだが、平野信行社長は「実現に向けて加速していく必要がある。20年といったが、もっと早くと思っている」と語る。東京大学などと協力してAI開発に取り組んでいる。
すでに店舗の機能を見直す軽量化は加速している。
三菱UFJ銀行は今年度中に、従来型の窓口がない「セルフ型」の新型店舗を実験的に新設する。ATM(現金自動出入機)はあるが、店内には案内係がいるだけだ。住宅ローンなどの相談は専用のテレビ電話窓口を使う。今後6年間で70~100店まで増やし、窓口のある従来型は半分にする。三井住友信託銀行も事務作業の約7割を減らす方針で、今秋以降、従来型の店舗を改装するかたちで少人数の小型店を増やす。
りそな銀行が昨年5月に開いた新宿西口店は、20坪の店内に来店客向けの席は三つだけだ。会社員が来店しやすいよう、営業時間は平日は午後1時から9時までで、土日も営業する。ローンや資産運用の相談業務に特化している。
多くの顧客を抱える都心の店は、個人客、法人客に対応し、預金の受け入れや振り込み、決済、資産運用など多くの機能を担うのが一般的だ。この新宿西口店は、支店長を含めて担当者は6人だけだ。同様の店を首都圏を中心に23店舗に増やした。来年度末までにさらに45店舗に拡大する。
メガバンクで店舗削減の動きが出る一方、りそなは店の数はできるだけ維持したい考えだ。資産運用の細かな相談や、スマートフォンの操作に不慣れな高齢者の接点として必要だとみている。「お金の相談は対面でしないと不安なもの。適正な店舗の規模を保っていく」(りそな幹部)という。
日本銀行の金融緩和による超低金利が長期化して金利収益は減り、人口減で先行きも見通せない。国内の店舗は銀行にとってコストがかさむ重荷になりつつある。
三菱UFJFGは2018年3月期決算で、店舗関連で430億円分の減損処理をした。将来の統廃合に伴う経費を先行して計上したほか、店舗の収益力が下がっていることも踏まえた。今後6年で2割の既存店を減らす。
福島銀行は18年3月期に、7年ぶりの純損失に転落した。将来の収益性を見直した結果、店舗など固定資産などの減損処理が必要になった。12支店の建物や設備などに関して約5億円の損失を計上した。
野村証券の高宮健氏は、「店舗の数は金融危機以来減っている。行員の多い過大な店舗が問題で、店舗の営業効率を改善する必要が出てきている。効率化の追求が銀行の生き残り策のカギを握る」と指摘する。(福山亜希、湯地正裕)