夫の精子で妊娠できなかった夫婦が、やむを得ず他人の精子を使う人工授精(AID)による妊娠率は5%にとどまることがわかった。兵庫医科大のチームが2015年までの10年間に国内で行われたAID約3万2千件を分析した。チームは、より妊娠率の高い技術を使えるよう議論するべきだと指摘している。
26日に千葉市である日本受精着床学会で発表する。
兵庫医科大の柴原浩章教授(産婦人科)らが、日本産科婦人科学会(日産婦)が公表するAIDの実績を集計したところ、10年間にAIDが約3万2千件行われ、妊娠は1723件。そのうち流産は280件(16%)だった。提供精子は感染症予防のためにいったん凍結されるため、受精する機能が落ち、妊娠率が低くなるとみられる。
夫婦間の不妊治療では、人工授精のほか、採取した卵子のまわりに精子をふりかける「体外受精」や、顕微鏡で見ながら精子を卵子に注入する「顕微授精」が実施されている。
一方、提供精子をめぐっては、国の専門家会議が00年と03年、法的なルールがないため、提供者が親と認められる可能性を指摘。すでにこの方法で多くの子が産まれていた人工授精は認めつつ、ほかの技術は法整備などがされるまで実施すべきでないとする報告書をまとめた。だが、今も法整備はされていない。
また、日産婦のルールでは、夫が射精した精液に精子がいない「無精子症」が原則で、ほかに選択肢がない場合にAIDができる。
柴原教授は、女性に不妊の原因がなければ、顕微授精なら35歳までの女性で5~6割以上、40歳以上は2割程度が妊娠できると推計。「患者は相当な覚悟を持ってAIDに取り組むので、可能な限り期待に応えられるようにすべきだ。技術的なハードルはないので、顕微授精の是非を現状を踏まえて議論してほしい」と訴える。(福地慶太郎)