2020年東京五輪・パラリンピック開催まで2年を切り、「ドーピングゼロ」を掲げる大会組織委員会と、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)のドーピング対策も本格化してきた。29日には検査員の実技研修会を実施。本番を見据え、育成に取り組んでいる。
「Please come this way(こちらに来て下さい)」。29日に東京都内であった国際総合大会DCO(ドーピング検査員)集合研修会。少し緊張した面持ちだった研修生は、ドーピング検査の対象となっている外国人アスリート役を見つけると、英語で声をかけ、身ぶり手ぶりを交えて誘導を始めた。検査対象者への通告、誘導が終わると、検査室のブースに入り、検体採取や書類記入などをこなす。ときには指導役に確認をしながら手順通り進めていた。
ビルの二つのフロアを借りて行った大規模な研修会には、男女合わせて66人の研修生が集まった。全員が今年3、4月に組織委とJADAが新規募集したドーピング検査員に応募し、書類選考を突破した人たちだ。
この日は陸上と重量挙げの国際大会を想定。スコアボードなどで順位を確認した後、研修生は自分の担当する「選手」を捕まえに行く。選手役の担当はエキストラで、出身地が異なる外国人も20人ほどを用意。大型スクリーンに競技結果と選手名、スピーカーからは大歓声が流れる臨場感ある環境で、訓練は始まった。
例年、JADAは年間10人ほどの新規検査員を募集する。書類選考通過者は座学を受講し、実技は現場で先輩の検査員の背中を見て覚えるのが通例だという。
しかし、五輪選手村の開村から大会終了までに予想される国内の検査数は、約6千~7千件。五輪が開催されない年の1年間の検査数と同水準だ。JADAは計450人程度の検査員が必要と見込んでいる。だが、すでにJADAに登録済みの人と海外からの応援を含めても、人員が足りない。JADAは今回募集した約160人のうち、百数十人を認定したい考えだ。
一気に大多数を育成するのには時間がかかる。一般的な競技会に送り込める研修員は1人程度のため、JADAの浅川伸専務理事も「これだけの人数はできない。1イベントに1人を送り込んでいては、期間が間に合わない」と説明する。そこでスポーツ庁の委託事業として今回初めて、このような大規模な研修会が開かれた。今回参加していない人たち用に同じ規模の研修会を8月中旬にも実施したのち、審査会議を開いて認定者を決める。
東京都練馬区の主婦・梶原奈津美さんは、組織委のフェイスブックなどを見て応募した。「日本で夏季五輪が行われるのは一生に1回かなと思い、何らかの形で関わりたかった」。実技ではうまくいかなかった面もあり、「終わってから気づいた点もあった」と反省した。
東京都世田谷区から参加した小林紗織さんは薬剤師。スポーツ好きの夫と見ていたテレビ番組で検査員の仕事を知り、「どういうことをするのかな」と興味を持った。外国人選手役とのやりとりに緊張し、「今までやったことのない設定だと急に手順が抜け落ちる。何回も繰り返して(自分に)定着させるのが大事」と話した。(遠田寛生)