〈視点〉問題こじらせてきた国の姿勢
諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐる30日の福岡高裁の判決は、確定判決に従わない国の異例な対応にお墨付きを与えた。「開門しない」という結論ありきの感は否めない。
諫早開門命令、事実上の無力化判決 漁業者側が逆転敗訴
高裁が根拠としたのは、漁業者が開門を求める権利の元にある共同漁業権の「消滅」。だが、一度得た漁業権免許は継続的に取得できるのが一般的だ。「いったん期限が切れた」という形式的な理由で確定判決を「無力化」する判断は、法的に成立しえたとしても、漁業者側には説得力を持たないだろう。高裁は、紛争解決機関としての司法の役割を果たしたと言えるだろうか。
漁業被害など核心の判断を避けた今回の判決で、漁業者が開門要求を取り下げることは考えにくい。漁業者側の上告で最高裁が判断を覆す可能性があるうえ、仮に国の勝訴が確定しても、不漁をもたらした有明海の環境変化などの問題は解決しない。
問題をこじらせてきたのは、干拓を進めた事業者の立場に固執し、開門を避け続けてきた国の姿勢だ。国には、関係者が歩み寄れる解決策を真摯(しんし)に模索する責任がある。(一條優太)
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