(6日、高校野球 大阪桐蔭3―1作新学院)
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思わず、苦笑いした。
「意識しないようにと思いすぎて、変に気負ってしまった」と、大阪桐蔭の柿木。九回2死三塁から適時打を浴びて完封を逃し、三塁手の中川と目が合った時のことだ。さらに死球で一、二塁。長打が出れば同点のピンチとなった。
1年前の悪夢が頭をよぎる。1―0で完封目前だった昨夏の甲子園3回戦。九回2死から逆転サヨナラ負けを喫した。あと1死の難しさ。だが、あの頃よりも柿木は強い。内野陣に声をかけ、ロージンバッグを触って間をあける。最後の打者を左飛に仕留めた。
相手は2年前の全国覇者、作新学院。「怖かったというか、何をしてくるんだろうというのはあった」と主将の中川は明かす。
今年の作新は選抜に出場していない。秋の関東大会ではコールド負けを喫している。それでも、西谷監督は春先から度々気にしていた。「今年の作新はどうなんですか? 夏には、仕上げてくるでしょう」と。
そして、事実、8年連続出場を決めた作新はやはり、手ごわかった。
「戦力では相手が有利なのは間違いない。捨て身の作戦。気持ちの勝負」とは試合前の小針監督。
先発の高山は走者がいない時でもクイックモーションを混ぜてタイミングをずらしてきた。2番手の佐取は胸元へどんどん直球を投げてきた。いずれも、栃木大会とは違う姿だ。そして、1球1球守備位置を変える内外野。いい当たりをしても、不思議なほどにその正面へ打球が飛んだ。三回の1点以降、大阪桐蔭は追加点を奪えないまま、1―0で終盤を迎えた。
小針監督は「良い流れ」と感じていた。一方の西谷監督は「ロースコアは作新が思い描いていた展開だろうと思った」。
だが、柿木は動じない。この2月には、1年前のサヨナラ負けの夢を見てとび起きたこともある。「やらなあかん」と奮い立ち、変化球を磨き、嫌いなランニングメニューにも率先して取り組むなど、心も鍛えてきた。
「走者を出すと何をしてくるか分からない」と、無駄球を使わずに押す。五~八回を三者凡退で締めると、八回に打線が2得点。結果的に大きな意味を持ったこの2点は、テンポ良い投球が呼び込んだものだった。
1年前は涙に暮れた試合後のお立ち台で柿木は「最後は課題だらけだけど、勝ててホッとしています」と笑った。「強い」と言われて戦う夏の初戦、そして難敵。予想通りの苦しい試合で、進化したエースが輝いた。(山口史朗)