昨春の選抜を制してからの1年数カ月。大阪桐蔭は高校野球の話題の中心であり続けた。その中でも、とりわけ注目されてきたのが投打の柱、根尾昂(3年)だ。最速148キロの直球に鋭いスライダー。抜群の身体能力を生かした遊撃の守備と打撃。見る者をワクワクさせてくれる18歳は、最後の夏をどんな思いで迎えているのだろうか。
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「やっと始まるっす!」
北大阪大会の開幕を目前に控えた7月上旬。根尾に今の思いを聞いた時の返答だ。拳を握り、目を大きく見開きながら、にんまりと笑った。早く試合がしたくてたまらない――。そんな感情が全身からにじみ出ていたのだ。
根尾はいつも、楽しそうに野球をやる。甲子園の映像をテレビで見た人なら分かるだろう。打席に入るときも、マウンドの上でも、その表情はどこか笑っているようにも見え、悲壮感がない。心底野球が好きなのだなと感じさせる。
迎えた北大阪大会。18歳は投打に躍動した。
背番号「6」をつけ、打っては5番打者として23打数12安打7打点で打率5割2分2厘。投げては準々決勝の金光大阪戦(2―1で勝利)で1失点完投。中1日の登板となった準決勝の履正社戦(6―4で勝利)では終盤につかまったが、先発として試合は作った。
タフな展開が予想され、その通りとなった2試合の先発を任されるあたりに、西谷浩一監督からの信頼の厚さがうかがえる。
4季連続の甲子園出場を決めた7月30日、根尾は今大会の「投」と「打」について、こう振り返った。
「ピッチングについては、打たれてはいけないところで打たれたり、履正社戦では点を取ってもらった次の回に取られたりと、甘さがあった。バッティングはまだ自分の中で『打った』という打席が少ない」。
満足感はない。もっとうまくなれる――。そんな思いが根尾の心を支配しているのだ。そして、激戦の北大阪を制した直後にこんな言葉が飛び出るのも、彼らしい。
「もちろん、北大阪を勝ち抜くのは甘くないと思ってやってきましたけど、勝っても満足していません。もっともっと。やっと甲子園に行ける」
昨夏は甲子園の3回戦で敗れ、春夏連覇の夢が断たれた。「去年の負けがあるからこそ、早くやりたいんです」。同じように春を制した今年こそ、春夏連覇を成し遂げる。そこに、自分たちの成長を感じることができるという。
「成長」は根尾自身が常に意識してきたことだ。高校入学からの2年数カ月を振り返ると、どこかのタイミングで大きく「化けた」という感じはない。ただ、見る度に、着実に進化しているといった印象がある。
中学時代の成績は優秀で、進学先の選択肢が大きく広がる中、大阪桐蔭を選んだのは「高卒でプロ」を思い描いたから。ただ、入学したては、その練習量に「体が持つかな」と不安も抱くスタートだった。
野手の練習メニューを中心にこなす中、実際、1年生の冬には左太ももを肉離れするなど、けがもあった。「その中で少しずつ体もできてきて、その上に技術や経験が乗っかってきた」というのが、根尾自身の回想だ。
「ある程度、感覚がある」という投球に比べ、打撃は「自分のフォームが見えていない部分もある」と試行錯誤を繰り返した。
プロの打撃を参考にすることはしない。チームメートの藤原恭大(3年)や中川卓也(同)、山田健太(同)らの打撃を見たり、意見交換をしたりしながら、「無駄を削る作業」を続けてきた。
今、少しずつ、自分の中で形になってきている感覚があるのでは? その問いに「あります」と力強くうなずく。同じ「選抜」という舞台で比較すると、昨春は19打数4安打で打率2割1分1厘。この春は18打数9安打で打率5割。練習試合では逆方向にも本塁打が飛び出るなど、確実性とパワーの両面で確実な進化を感じさせる。
投球面では、5月末から夏の「完投」を念頭に練習試合の中で感覚を磨いてきた。軸となるのは直球とスライダー。カーブやチェンジアップもあるが、そのスタイルは入学以来、ほとんど変えていない。打者を見ながら、押し引きをして打ち取る。そのために積んできた「経験」が、最大の武器であり、投球のレベルアップを支えている。
さあ、集大成の甲子園。「春は勝てているけど、夏の甲子園はまったく違う。去年の悔しさをどうつなげていくかをテーマにします。早く、行きたい!」
誰よりも根尾自身が「ワクワク」しながら、夏の聖地へ乗り込む。(山口史朗)