全国すべての駅を制覇した、トラベルライターの横見浩彦さん(56)。人生をかけて鉄道趣味を貫いてきました。その存在は、鉄道を趣味とする「テツ」を広く世に知らしめるきっかけにもなりました。テツとして偉業を達成したいまも、乗り続けています。
テツの広場
8月最初の週末、真岡(もおか)鉄道下館駅(茨城県)にその姿はあった。
ほとんどの観光客が入線したSLもおか号にカメラを向けるが、中には気付く人がいる。長身に眼鏡、地味な色合いのTシャツ、カバンは肩がけ。景色になじんでいるのに存在感が際立つ。鉄道ファンから求められて一緒に写真におさまったり、握手をしたり。ぶっきらぼうな物言いに似合わず、旺盛なサービス精神を発揮する。
テツの中のテツだ。自ら「鉄道に人生を捨てた」と断言するくらい、鉄道趣味を貫いてきた。
始まりは小学生の時、友人が持っていた時刻表だった。ページをめくれば、想像の世界でどこにでも旅することができた。
「子どもの頃から時刻表に慣れ親しんできた人間にとって、普通の流れじゃないですか?」
気軽に話すが、そこからの「流れ」は普通じゃない。高校1年で初めて長期の鉄道旅。それから9年かけて、すべての国鉄路線(当時)を乗り通す「乗りつぶし」を達成した。いわゆる「完乗(かんじょう)」だ。
趣味なら普通、ここで終わる。実際、目標を失って一時、鉄道への執着が薄れたという。ところが30歳の時、新たな野望を抱く。スキー旅行で訪れたJR安比高原駅(岩手県)。列車を待つ時間をもてあまし、駅の構造をメモ用紙に書いてみた。別の駅でも同じことをしてみた。そしてふと気付く。
「駅は無限じゃない。すべての…