NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」の放送が最終回まで残り1カ月となった。高視聴率を維持しつつ、SNS上では、ヒロイン像やストーリーの展開をめぐって、様々な意見が飛び交い、白熱している。脚本を書いた北川悦吏子さん(56)にドラマに込めた思いを聞いた。
「ロングバケーション」(1996年)、「ビューティフルライフ」(2000年)などのヒットドラマを手がけ、今回、朝ドラに初めて挑んだ。高度成長期の終わりからバブル期を経て、日本が失速する時代を背景に、1971年岐阜県生まれのヒロイン鈴愛(すずめ、永野芽郁〈めい〉)の0歳から40代までを描いた。鈴愛は9歳で左耳の聴力を失い、漫画家になる夢や結婚生活が破れるなど、人生の挫折を何度も味わう。猪突(ちょとつ)猛進型でマイペース。どこかちゃっかりもしていて、ふてぶてしさもある。従来の朝ドラの枠に収まらないヒロイン像だ。
「今の時代だからこそ、何があっても生きていくという強い女性を描きたかったんです。人間にはどんなにつらいことがあっても生きていく力がある。ヒロインには闘う感じがほしかった。厳しい社会だけど、どう自由を勝ち取るか。そのためには若干手段を選ばなくてもいいんじゃないかぐらいに思って。鈴愛のしたたかさ、自分の気持ちのままに動くところが私は大好きです。あの強さに憧れますね」
周りの空気を気にしない鈴愛の“暴言”やぞんざいな口調もその効果を狙ったうえでのセリフだ。朝ドラはセット中心なので、脚本のセリフが魅力的であるかどうかはとくに重要な要素となる。
「岐阜弁と標準語をあえて混在させ、イントネーションもなまるか、なまらないかを細かく指示しました。作品として、どんなセリフが心に響き、面白いかをとことん計算して言葉を選んでいます。私のやっていることは“言葉のデザイン”なのです」
子役も含め、役者たちには会って話をしたうえで「あて書き」をした。
「鈴愛役の芽郁さんは、黙っているときの表情からして強いものがありました。彼女のもつタフさ、人にこびない感じがそのまま鈴愛に重なったんです」
鈴愛の師匠、漫画家の秋風羽織役の豊川悦司さん(56)とは1年にわたって意見を交わし、役を作ったという。
途中、鈴愛の乳児の娘が一気に5歳になるなど、ストーリーの急展開に視聴者から戸惑いの声もあがったが、子どもの成長とともに子役を代えることをよしとせず、時代設定の方を変えたという事情もある。
「子役といえども、大人の俳優と同等。きちんと役柄を与えたい。本人のもっている資質があります。3歳、5歳と、コロコロと入れ替わると、あて書きが成立しなくなります」
「無謀」な企画、闘病生活の中で
ドラマの着想は自身の体験に基づく。2012年、聴神経腫瘍(しゅよう)で、左耳を失聴した。
「ショックでしたが、しばらくして、雨の日に傘を差すと、左側だけ雨が降っていないように聞こえたのが面白くて、これってドラマになると思いました。同時に『半分、青い。』というタイトルも浮かんで。ハンディーキャップがあっても、強調するわけでもなければ、隠すわけでもなく、普通に生きていく。それを堂々と朝ドラでやれば画期的で意味があるんじゃないかと思ったんです」
企画をNHKに持ち込んだ。が、長丁場の朝ドラに挑むには失聴とは別の体力的な問題があった。もともと腎臓に持病があったうえ、99年、難病の炎症性腸疾患を発病。痛みに苦しむ闘病生活が続いた。09年、大腸全摘の手術を受け、激痛で七転八倒する入院生活を3カ月間送った。今も病気の恐怖と向き合う。
「あと先を考えず、何かにつき動かされたように、ただこの企画をやりたいと手をあげてしまった無謀なところは、まるで鈴愛と同じだなと。でも『半分、青い。』が朝ドラでできるかもしれないと思うことが、私の闘病の先の光でした。仕事に集中することで病気を忘れたかったというのもあります」
万一の場合を考え、古い友人で『ひよっこ』など3作の朝ドラを手がけた脚本家の岡田惠和さん(59)に相談。
「いざというときは自分が代打を引き受けるとNHKに申し出てくださった。それで踏み切れました」
17年の元旦から始めた執筆は予想以上にハードな作業だったという。途中、救急車で2度病院に運ばれ、病室で執筆したことも。
「でも静かな気持ちになれて、不思議といいセリフが書けたんです。鈴愛の幼なじみの律(佐藤健)が鈴愛と別れる回、『僕たちは記憶のお手玉をする』『最後に僕は、鈴愛の夢を一枚だけ盗んだ』という律のナレーション、あれは入院中でなきゃ書けなかったと思います」
北川さんがツイッターをめぐってNHKに「何度か叱られた」理由とは。鈴愛と律、2人の関係の行方は。後半に続きます。
人が死んだり病気になったりす…