早くも最低気温が零下となった街もある北海道で、道内の電力を担う火力発電所の全面復旧が11月以降にずれ込む見通しが示された。冬が近づく中、長引きかねない節電生活への不安が広がっている。
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電力不足の長期化は暮らしに影響しそうだ。
この秋最も早く最低気温が零度未満の「冬日」となった稚内市。吐く息は白く、水たまりには氷が張った。市職員柴田貴代さん(43)は「寒さに勝てず、昨晩は電気を使用する灯油ストーブをつけたが、今日からは物置にしまってある移動式の灯油ストーブを出して、節電します」。
要介護3以上の約80人が入居する札幌市厚別区の特別養護老人ホーム「かりぷ・あつべつ」。施設に予備電源はなく、停電時は施設は真っ暗に。たんの吸引が必要な入居者のため、車のエンジンをかけ、何とか電源を確保した。
自家発電機の導入には600万円かかり、負担は大きい。寒さが厳しい時期に計画停電となれば、灯油ストーブの購入も検討する。運営する社会福祉法人の下斗米博さん(44)は「計画停電になるなら準備が必要。早めに情報がほしい」と訴える。
札幌市内の保育園長は「正直早く節電が終わってほしい」と嘆く。停電が復旧しても、暗い廊下に出たり、電気のついていないトイレに入ったりすると急に泣き出す園児もいる。停電が子どもたちの心理に与えた影響が大きいと感じる。園内では事務室や廊下などは極力電気を消すが、園児がいる場所だけは電気を消せない。「早く園内全体を明るくして、ケアを進めたいのに……」
北海道水産物加工協同組合連合会の斉藤貢常務理事(56)も「停電が最小限の損害で済み、一安心していたところだったのに」と困惑する。カズノコやイクラなど、年末年始向けの商品の製造が最盛期のいま、電力不足は死活問題だ。
製造、保管には冷蔵庫や冷凍庫が欠かせず、温度が変われば風味が落ちる恐れもある。事務所は照明を落とせるが、製造現場での節電は難しい。商品によって原料も製造方法も異なるため、斉藤常務理事は「一律の対策を打ち出しにくい。それが悩みの種」とため息をついた。
札幌市の福田亜紀さん(44)は自宅がオール電化。停電が復旧後、自動で点灯する玄関灯の電源は切り、炊飯器は使わずに、圧力鍋で短時間で米を炊く。
電気代の値上げを受け、節約には努めてきた。「やれることはもうやってきた。これ以上できるかどうか」。屋根につけた太陽光発電設備が活用できる日中に、洗濯をしようと思っている。
いつまで続くかわからない電力不足に備える動きもある。
農機具などを販売するイワサ札幌店(札幌市東区)では、発電機を並べていた棚が空っぽに。岩佐哲哉社長(52)によると、価格は約10万~20万円前後で、年間の販売台数は20~30台程度。停電があった6日、店頭にあった在庫約15台があっという間に売り切れた。
10日から本格営業を再開すると、すぐに20台ほどの注文が入った。東日本大震災後は約3カ月で100台ほど売れたが、今回の売れ行きの勢いは「当時と同じか、上回るくらい」。来週以降、約100台が入荷する予定だが、予約が相次いでいるという。(青木美希、遠藤隆史、竹井周平、山下寛久)
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「老朽化が進んだ発電施設もフル稼働させ、何とか需要を支えている状況だ」
世耕弘成経済産業相は11日、北海道電力(本店・札幌市)の対策本部会議に出席。真弓明彦社長らを前に「電力供給の維持に向けた闘いはこれからが正念場だ」と力を込めた。
北電はこの日、補修や点検入りしていた揚水発電所2基が13、14日に再稼働すると発表。世耕氏も報道陣の取材に、継続的な節電を前提に「計画停電のリスクは低下する」と述べた。
とはいえ、綱渡りの電力供給を解消するには、被災した北電最大の火力発電所、苫東厚真(とまとうあつま)発電所の再稼働が欠かせない。
北電は11月の全面復旧を目指すが、想定通りに進むかは分からない。1号機で石炭を燃やすボイラー内の配管が少なくとも2本、2号機で11本破損した。しかも、点検は終わっておらず、新たな破損が見つかる可能性がある。4号機については、火災で損傷したタービンが高温で、いまも「点検ができていない」(阪井一郎副社長)。
北電は老朽化した火力発電所などを総動員して電力をかき集めている。いま運転している五つの火力発電所9基のうち、5基が運転開始から40~50年が経過。ひとたびトラブルが発生して運転が止まれば、電力の供給は厳しくなる。
11日も1978年から運転している音別(おんべつ)発電所(北海道釧路市)の1基がタービンの不具合で自動停止した。同じ発電所のもう1基を動かして、全体の供給力を変えないようにしたが、綱渡りの状態が続く。
苫東厚真発電所が予定通りに11月に全面復旧したとしても、その後は1年で最も電気の使用量が多い冬がやってくる。今年1月の最大需要は約525万キロワットで、現在の発電能力の1・5倍だ。北電は例年、電力に余裕がある秋までに発電所を補修して冬に備える。このまま老朽化した火力発電所のフル活用が続けば、想定外のトラブルが起きるリスクがふくらむ。(長崎潤一郎、大津智義、伊沢健司)