日英の文化交流に寄与したとして今春、旭日重光章を受章した長崎市出身のノーベル文学賞作家カズオ・イシグロさん(63)への叙勲伝達式が12日、ロンドンの日本大使公邸であった。イシグロさんは式典で、日英関係の深化を願い続けた少年時代を振り返り、「これまで受けた栄誉とはまた違った感情が湧く」と喜びを語った。
イシグロさんは、5歳で家族と渡英。当時は日英が戦った第2次大戦の影が色濃く、「この影が消えて両国の友情関係がより大きく温かいものになればいいと毎日願っていた」と語った。それが現在は貿易・外交にとどまらず、小説からファッションまで異国のものと思わずに互いの文化を受け入れ合うほど関係が深まったとし、「少しでも貢献できていたとするなら、うれしく誇りに思う」と話した。
式典の前には日本メディアの取材に応じた。
今年のノーベル文学賞の発表が選考団体「スウェーデン・アカデミー」の関係者による性的暴行疑惑などを受けて見送られることについては「スキャンダルは受賞者の選考には関係がなかった」と強調。その上で「スウェーデンの人々にとってアカデミーがどれだけ大事な存在か知っているのでとても残念だ」と話した。
来年3月に英国が欧州連合(EU)から離脱することについては、イシグロさんは残留派だと自ら明らかにしてきた。英国の雇用確保に貢献してきた日本車生産の今後に懸念を示しつつ、「EU離脱で傷つかないほど日英の友情関係は深まっている」と話した。
今後の執筆テーマについて、日本関連の物語は「すぐに書く予定はない」と断ったうえで、「今も自分が生まれる直前の日本に魅了されている。自分がどんな世界に生まれてきたのか理解する必要があり、いつか(そのテーマに)戻るかもしれない」と語った。(ロンドン=下司佳代子)