「背中からポキッという音がした。もうだめだ、と死を覚悟した」。東京都武蔵野市の男性(91)は、2016年9月に起きた事故について、朝日新聞の取材に語った。
ハンドル付きの電動車いすに乗り、自宅の車庫から道路に出ようとしていた。安全確認のために一時停止した際、下りてきた電動シャッターと車いすの間に体を挟まれた。背中を強く圧迫され、助けを求める声も出せない。通りかかった人が妻(85)を呼んでくれて助かったが、腰の骨が折れる大けがを負った。
消費者安全調査委員会(消費者事故調)の報告書によると、男性の体には約120キロの力がかかったと推測されている。支柱と支柱の間を走る2本のセンサーの光が一方でも遮られるとシャッターが止まる安全装置がついていたが、偶然どちらも体と車いすの間のわずかな隙間を通り抜け、作動しなかったという。事故調の担当者は、同様のことは自転車などでも起きる可能性があると指摘。報告書は、安全装置の普及だけでなく、さらなる改善も求めた。男性の家では事故後、センサーの光を4本に増やした。
14年8月には、沖縄県内のスーパーで入り口のシャッター(重さ160キロ)が落下し、客の女性2人が負傷。設置から約11年が経ち、シャッターを支えるチェーンが腐食して切れたのが原因の一つとされた。保守点検はしていなかったという。報告書は、所有者が保守点検をするようにメーカーなどが働きかけるべきだとしたが、あるメーカーの担当者は「費用を気にする人もいる。不具合が出たら修理すればいいという人が多い」と話す。事故調によるアンケートでも、戸建て住宅で点検を受けているのは16%だった。(野村杏実)
■電動シャッター事故、16年で…