暗がりの中で人の目を気にせず運動する「暗闇フィットネス」も今年、高松市内に登場した。丸亀町商店街にオープンした「フィールサイクル」。非日常的な空間が「いつもと違う自分になれる」と人気を集めているという。入社1年目で、近ごろ運動不足に悩む記者(25)が体験した。
入社前は筋トレが日課だった。記者になったら、たった10行の記事にも苦しむ日々。上司からは何度も書き直しを命じられ、運動する暇はとてもない。
そんなとき、総局に届いたファクスが目に留まった。好きな筋トレと仕事が兼ねられる。電話で取材を申し込んだときの顔は、きっとにやけていた。
入り口は地下に続いていた。秘密基地に進む心地だ。スタジオに入った。フィットネスバイクが40台ほど並ぶ。インストラクターの女性が現れ、バイクにまたがり、向かい合った。
レッスンが始まった。照明が消え、洋楽が耳をつんざく。重低音が体に響き、気持ちが高ぶる。インストラクターの掛け声に合わせ、ペダルを踏み込んだ。
「ここでスピードアップ。ハイ、ハイ、ハイ」。頭上では、ミラーボールが回りながら赤や緑の光を放つ。1レッスンで10曲ほどが流れ、計45分間。初心者向けのコースだが、のっけから汗が止まらない。
取材でも時々、自転車を使うが、火事や事故の現場に急行するときも、こんな汗はかいたことがない。1曲目が終わるころには息が切れ、全身はびしょびしょになってしまった。
インストラクターが次々と指示を飛ばす。立ったり、腕を動かしたりしながらこぐ。ひたすらこぐ。徐々に太ももが熱くなり、上がらなくなってきた。
「みなさん、声を出して。ワンツー、ワンツー」。笑顔のインストラクターは容赦がない。「ワンツー、ワンツー」。みんなで負けじと声を張り上げる。
自転車を必死でこぎ、叫ぶ顔なんて外なら人に見せられない。でも、暗闇だから気にならない。むしろ、叫べば叫ぶほど気持ちが良くなってきた。
気がつくと、曲がやんでいた。明かりがついた。バイクを降りたら、両足が震えていた。「お疲れさまでした」。インストラクターに声をかけられ、我に返った。必死の形相で叫びながらこぐ己の姿を想像し、少し照れくさかった。(小木雄太)