創業45年を迎えた兵庫県西宮市高松町の老舗洋食店「土筆苑(つくしえん)」が、開店当初に提供していたステーキサンドを復活させた。当時の味わいを再現しつつ、食文化が多彩になった今でも満足してもらえるよう調理に工夫を凝らした。1日10食限定で販売している。
土筆苑は1973年8月、大衆的な洋風料理を味わえる店として、プロ野球阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)の本拠地だった阪急西宮球場の北側にオープンした。
阪急西宮北口駅にも近く、夜はラウンジとしても営業。豪快な投球とパフォーマンスで人気だった元阪急投手のアニマルさん(故人)ら野球選手をはじめ、企業の役員らでにぎわったという。
夜のメニューとして提供していたのが、ステーキサンドだった。オーナーの玉置洋子(たまおきひろこ)さん(74)は「おいしい赤身の牛肉を手軽に食べられるので、常連客に評判でした」と振り返る。定番メニューとして、90年ごろまで提供した。
2002年に球場が閉鎖。一方で、周辺では宅地開発が進み、08年に球場跡地に大型商業施設「阪急西宮ガーデンズ」ができると、一帯は買い物客でにぎわう街に変わった。こうした移ろいにあわせ、店は11年にラウンジをやめ、洋食店に専念した。
開業45年を迎え、玉置さんからサンドの思い出を聞いたシェフの大谷隆文さん(40)が「幻のメニュー」の復活に取り組んだ。
当時の料理人にレシピを聞き、約130グラムだった牛肉の分量などは細かく再現。一方、赤身のヒレ肉は真空パックにしてお湯でゆっくり加熱し、最後に焼き目を入れるなど、新たな調理法で風味にひと工夫を加えた。パンも特注で厚みにこだわる。
試行錯誤を重ね、完成まで2カ月かかった。大谷さんは「肉はやわらかく、パンはぱりっとした食感。再現するだけでなく、味の記憶を上回るように考え抜きました」。玉置さんは「なじみの客だけでなく、女性にも食べやすい新しいメニューができた」と話す。
価格は当時と同じ、1食(3切れ)で税抜き2500円。持ち帰りもできる。問い合わせは土筆苑(0798・65・3366)。(崔埰寿)