プロ野球は日本シリーズ進出をかけたクライマックスシリーズ(CS)が13日に始まる。リーグ3位からの「下克上」を狙う日本ハムの打線のキーマンが3番の近藤健介(25)だ。今や球界屈指の「安打製造機」となった秘密は、「目」にあった。
A4サイズの紙を見つめ…
近藤には、ホテルや移動中に行うルーティンがある。「メンタルビジョントレーニング」と呼ばれる目の練習法だ。やり方はいたってシンプル。文字や図形、絵柄などがそれぞれ描かれたA4サイズの紙を手に持ち、顔から30センチほど離してじっと見つめる。
たとえば、青い字で「あか」と書かれていると、その下に六つ並んだ色の文字の中で、「あお」と書かれているものを指さす。「あお」は緑で書かれていて、青い字で書かれた「きいろ」などがある中、「あお」を間違わずに選ぶことで、動体視力と脳の反応を鍛えるのだ。
ほかには、紙の中心部分を見ながら全体の構図を把握したり、無作為に並ぶ五十音の文字を「あ」から順番に探したりする。1回15分ほど。ゲーム感覚で楽しんでいて、「欠かせない僕の大事な練習の一つ」という。
臨床心理士がきっかけ
2016年12月に球団トレーナーから臨床心理士を紹介してもらい、はじめたのがきっかけだった。
すると、16年は2割6分5厘だった打率が、17年は規定打席に届かなかったものの57試合で打率4割1分3厘を記録した。プロ7年目の今季も、途中までは4割近くをキープ。けがもあってリーグ3位の打率3割2分3厘に終わったが、一度も3割を下回ることなく自己最多の149安打を積み上げた。昨季まで同僚だった大谷翔平(エンゼルス)が「天才的な打撃」と表現したほどだ。
目の訓練の効果について、近藤は「投手が投げたボールを漠然とぼやっと見て打ちにいけるようになったんです。初めてわかった感覚で、結果も出るようになった」と話す。
横浜高から11年秋のドラフト4位で捕手として日本ハムに入団した近藤。打撃力を買われ、3年目から1軍に定着するようになった。視力は両目とも1・5と、もともと良い。だが、「ボールを直視しすぎると体が硬くなって突っ込んでしまう」と自己分析。今ではボールの見方が大事だと気づき、「見過ぎずに、視野を広く持って打つことを意識している。気持ちの面でも余裕が生まれる」と言う。
特殊なサングラス使用
もう一つ、欠かせないアイテムが「ビジョナップ」という特殊なサングラス。「まばたきをしているみたい」に視野を断続的に遮断させて負荷をかけることで、眼筋を鍛える狙いだ。近藤は、このサングラスをかけながら練習前のロッカーや自宅で壁当てやお手玉を繰り返す。「外した時の見え方がよくなるし、集中力も鍛えられる」
明らかに変わったのが、選球眼だ。16年は291打席で29四球と約10打席に一つのペースで四球を選んでいたが、17年は、231打席で60四球。4打席に1度以上の割合で四球を選んでいる計算になる。
今季も87四球はリーグ3位で、4割2分7厘の出塁率はリーグトップの柳田悠岐(ソフトバンク)と4厘差だった。近藤は「ボール球や際どい球は、振ってもヒットになりにくい。打てる球、甘い球をいかにとらえられるか。そういう意識でやっています」。
それでも、「優勝」と「首位打者」の目標はどちらも達成できなかった。「悔しい1年だったし、もっと打てるはず。CSでやり返したい」。11日の最終戦では3安打を放つなど、状態は上向きだ。
(18年の成績は12日現在)(山口裕起)