医療法人グループが与野党を問わず、選挙支援で勤務中の職員を派遣していた。給与などの報酬を支払ったうえで選挙運動をさせていれば、選挙運動と勤務の実態によっては、選挙運動者への利益供与を禁じた公職選挙法に抵触する可能性がある。
衆院選応援に勤務中の職員を度々派遣 名古屋の医療法人
2014年12月にあった衆院選。医療法人「偕行会」グループの複数の元職員が資料などをもとに、当時の状況を証言した。
同グループでは、社内ネットワークで勤怠簿(勤務表)が管理されているという。スケジュール表のようになっており、上司が部下の勤怠簿に予定を書き込むことで仕事を指示することがある。
公示日前。職員(当時)の勤怠簿の公示日にあたる日に突然、「選挙手伝い」と書き込まれた。集合場所も書かれていた。
当日の午前、集合場所は同グループの法人本部が入るビルの役員駐車場だった。本部の車3、4台に約20人が乗り込み、工藤彰三氏(自民、衆院愛知4区)の「第一声」が行われる場所に向かった。
現地では、工藤氏の秘書から陣営のスタッフジャンパーを手渡され、仕事内容が伝えられた。交通整理などをしながら、「工藤彰三をよろしくお願いします」と連呼した。
当日の様子を撮影した写真には、陣営のスタッフジャンパーを着て「必勝」の大きなうちわを持つ同グループの職員が写っている。
同じ日、別の職員らは岡本充功氏(国民民主、衆院比例東海ブロック)の事務所で、選挙ポスターに両面テープを貼るなどした。公示後も、有権者に電話で投票のお願いをするために事務所を訪問したという。
元職員は「業務命令という認識だったので選挙運動の日に休暇は取っていない。残業代ももらっていた」と話した。(沢伸也、竹井周平)
「当時の総務部長が指示」
朝日新聞のこれまでの取材に対し、偕行会グループは「当時の総務部長の指示でポスター貼りなどの機械的な労務を提供したことが確認された。ただし、同部長がどのような処理をしたか、法的な問題があるかは不明」と回答している。また、「同部長に対しては不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起し係争中で、懲戒解雇している」としている。なお、この訴訟の争点や解雇理由は選挙応援とは関係がない。
工藤氏の事務所は「(偕行会側に)選挙運動を手伝っていただいた事実は把握していない。選挙運動はすべてボランティアでやってもらっている」と回答した。岡本氏は選挙の直前まで偕行会グループの医師で、「同僚として無給になるけど応援に来てほしいと口頭で言ったことはあるが、給料が支払われているということは承知していない」と話した。