米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市への移設の賛否を問う県民投票が、実施されることになった。関連条例が成立した26日、実現に向けて署名集めをしてきた市民団体の代表らは、活動が実を結んだことを喜んだ。だが、課題も残る。
辺野古賛否問う県民投票、来春までに実施 条例が成立
午前11時前。県議会の傍聴席で、市民団体「『辺野古』県民投票の会」代表の元山仁士郎さん(26)は条例可決の瞬間を見守った。「県民全員で考える機会を実現でき、誇らしい」と喜びをかみしめた。
県民投票の会は、5月から2カ月間で有効署名9万2848筆を集めた。関連条例制定に向け、直接請求に必要な有権者の50分の1(約2万3千筆)の4倍近くにのぼる。
事務局長として、署名活動を取りまとめてきた呉屋陽子さん(42)はこの日、那覇市にある同会の事務所でネット中継の画面を見つめた。9歳と4歳の2児の母だ。「やっとスタートラインに立てた。子や孫、後世に、県民のはっきりした意思という証拠を残すことができる」
40年ほど前、父が米兵の運転する車に追突される事故に遭った。飲料配送の仕事からの退職を余儀なくされ、痛みにも苦しむ姿を見てきた。「なぜ沖縄に基地が集中するのか」と、疑問を抱き続けた。辺野古移設についても長年心の中で反対してきたが、子育てもあり、具体的な活動や運動に携わることはなかった。
今春、県民投票の会の存在を知り、さっそく加わった。「自分にできること」が見つかったと思った。それから半年余りで条例が成立し、県民投票が実現することになった。
ただ、こうも考える。「普天間か辺野古かという苦しい二択を、なぜ沖縄県民が迫られなければいけないのか。県民投票を機に、本土の方にも我がこととして考えてほしい」(伊藤宏樹、成沢解語)
県民投票本番までには、課題も残る。最大のものが、全市町村が参加するかどうかだ。
条例では、投開票の事務作業などは市町村がすると定める。費用は県が市町村に交付するが、市町村の補正予算として成立させる必要がある。だが、議会が補正予算案を否決すれば、首長が専決処分をしない限り予算は成立せず、その自治体では県民投票は実施されないことになる。
石垣市議会は17日、条例に反対する意見書を可決しており、補正予算案が否決される可能性もある。
また県内41市町村のうち石垣、浦添などの6市は、県民投票への態度を保留している。宜野湾市の松川正則市長は26日、報道陣に「普天間飛行場はどうなるのか。固定化につながる」との懸念を示した。
1996年の沖縄県民投票の際は、県と市町村が上下関係にあり、市町村は実施を拒めなかった。だが、地方自治法が改正され、市町村と県は対等の立場になり、強制できなくなった。
有権者の名簿は市町村の選挙管理委員会が管理しており、県が代わりに職員を派遣して投開票作業をすることもできない。有権者が別の自治体で投票することも不可能だ。
県は6市長に理解を求めていく考え。担当者は「一部の県民だけ投票できないという事態は避けたい」。
投票率の向上も難題だ。96年の県民投票は59・53%、9月の知事選は63・24%だった。県政与党の県議は「投票率が低ければ『民意と言えるのか』と疑問視される。『知事選などで示した民意を無視してきた政府に、改めて意思を示そう』と呼びかける」と話す。(伊藤和行)
比屋根照夫・琉球大名誉教授(政治思想史)の話
今回10万近い署名が集まったのは、20年以上続く辺野古問題のダイナミックな解決を望む県民の気持ちの表れだろう。一方で、県民投票をやらざるを得ない状態に沖縄が追い詰められているとも言える。選挙で何度も「辺野古反対」の民意を示しても、国は「辺野古が唯一」という姿勢を変えようとせず、地方自治が踏みにじられている。国の姿は、沖縄だけが声を上げても変わりようがない。沖縄県民が考えるだけでなく、国民全体で「民主主義とは何か」を問うきっかけとなってほしい。
国民投票や住民投票に詳しいジャーナリスト・今井一さんの話
基地問題は「国策だからなじまない」と言う人もいるが、本来は国民投票で問うべきほどの重要な課題。知事選で県民の意思は示された面はあるが、辺野古問題に限って直接賛否の意思表示をしてもらうことに大きな意味がある。本土の人間にとっても、日米安保を現状のまま続けるのか、基地をどこかが引き受けるのか、あるいは米国への移転を求めるのか、議論する良い機会だ。