飲食店などに音楽を配信するイメージが強い「USEN」。CDなど音楽市場の縮小を背景に音楽配信からの脱却を図り、事業の多角化をめざしています。その方向性とは。田村公正社長(47)に聞きました。
――音楽を配信する会社からの転換を図っています。
「50年培ってきた音楽配信事業への依存から脱却している。音楽CDの生産金額が1998年は6千億円近い規模だったのが、いまは2千億円を切っている。音楽への価値観が変わり、スマートフォンなどで音楽が楽しめるようになった。著作権をクリアせずに違法に音楽を流すところもある。音楽配信はコアなビジネスなので、客を維持することには努めるが、依存することはできない。次のビジネスを模索している」
――どんな事業に取り組みますか。
「中小の飲食店や小売店のIT化が遅れているので、ここの役に立ちたい。具体的にはPOSレジ。タブレット端末に開発したレジのアプリを導入すれば、売り上げ管理や経営分析が簡単になる。客席での注文システムも開発し、音楽配信に続く柱になる」
「また、店舗への総合的サービスとして開業支援から損害保険、電力やガスなどトータルで支援できる」
――いつごろかじを切りましたか。
「2013年に社長に就任してから。かつては様々な事業にトライしたが、BtoB(企業間取引)のビジネスに即したサービスを提供していく」
――以前も経営の多角化に取り組んでいました。内容と撤退の背景は。
「音楽配信のほかにカラオケ事業もやっていた。次の柱としてコンテンツビジネスを始めた。動画配信サイトのほか、映画配給会社を子会社化して育てていたさなかにリーマン・ショックが起きた。事業の整理をする局面に入った。コンテンツビジネスという飛び地に行くよりは、50年間、音楽配信の提供で付き合いがある飲食店や小売店と向き合っていきたい」
――今後のビジョンは。
「レジの月間販売台数を2千台にする。3年後には5万台が市場で動く。USEN=レジの会社になる。レジを起点にして関連するサービスにつなげて、客が開業する場合にパッケージのサービスを提供する。音楽配信事業の売上高は、横ばいを維持しながら利益分を新規事業の投資に回す。どうしても対外的には音楽配信のイメージが強い。今まさにブランドのスイッチをしている局面だ」(聞き手・長橋亮文)
たむら・きみまさ 1971年、兵庫県生まれ。94年に大阪有線放送(現USEN)に入社。営業部門を歴任し、2004年東東京支社長、09年営業本部長、10年に常務、11年に副社長に就任。13年から現職。阪神大震災後に顧客の復旧を支援した経験から開業支援サービスに力を入れる。