和菓子や菓子パンに欠かせない「あんこ」が、甘くない状況に追い込まれている。原料になる小豆(あずき)の値段が、主産地・北海道の不作で高騰。国産品の確保が今後、さらに難しくなる可能性があり、和菓子業界の関係者が北海道に出向き、増産への協力を呼びかけた。
東京・麻布十番の商店街にある「浪花家総本店」は毎日50キログラムの小豆を8時間かけて炊く。一つ一つを型で焼く手法で、パリッとした薄皮の中にたっぷりのあんこが詰まったたい焼きは税込み180円。1日約2千個を焼き上げる。
店主の神戸将守さんが気をもむのは、来年春に契約する小豆の価格だ。使うのは北海道・十勝地方産。「他の産地の小豆だと、好みの味に仕上げるのが難しくなる」とこだわってきた。
東京の業者間の取引価格(貿易日日通信社調べ)は近年、60キロ当たり2万円台前半から半ばが相場だったが、今年11月は3万6千円にまで上がった。このままではたい焼きを値上げせざるを得なくなる。
消費税率が8%になった2014年に150円から引き上げたばかり。それまで17年間、価格を据え置いていた。今後、小豆の不足が深刻化すれば値上げも視野に入る。「お客さんのことを考えると価格はなるべく上げたくない。来年1年は我慢の年と覚悟している」
東京・日本橋に本店を構える栄太楼総本舗も、小豆の確保に危機感を抱く。看板商品のきんつばなど小豆を使う商品はすべて十勝産。「風味やコクなどで替わるものが今のところない」からだ。
国内で使われる小豆は7割が国産。その9割が北海道で栽培され、大半が十勝産だ。ホクレン農業協同組合連合会によると、今季は低温と長雨で収穫量が前年より1~2割減る見込みだ。
加えて、道内の作付面積が減少傾向にある。16年は前年比26%減の1万6200ヘクタール。2万ヘクタールを割ったのは66年ぶりだ。
かつては「赤いダイヤ」と呼ばれ、価格が高騰することもあった小豆だが、近年の価格は生産者にとって「不満」と感じる水準で推移。14、15年は豊作で在庫が道内の年間生産量に匹敵するほど膨らみ、60キロ当たり2万円近くにまで下落。作付けの大幅減につながった。
もともと小豆は、草取りなどで人手がかかる。収穫の機械化が進み、国の補助金もある大豆などへの転換が進んでいた。
「全国の菓子屋の強い思いをご理解いただき、安定供給をお願いしたい」
11月1日、今後の小豆生産について意見交換する会合が北海道北見市で開かれ、全国和菓子協会の細田治会長がこう、JA関係者に訴えた。
同協会は前年にも十勝を訪問。細田会長は「和菓子は洋菓子に比べて安い。和菓子屋側の反省だが、もっと付加価値をつけて価格帯を上げ、原材料を高く仕入れないと」と述べつつ、作付面積の拡大を求めた。
そんな現状を商機とみて、北見市を含むオホーツク地域は十勝に並ぶブランド化に取り組む。
近隣の14農協は今秋、豆の調製工場「オホーツクビーンズファクトリー」を共同で稼働させた。小豆の品質を一定に保つとともに、統一パッケージで商品化する。JAきたみらいの古屋博之マネージャーは「和菓子は日本の文化。その原料の小豆をつくることで生産者の誇りにもつながる」と話す。
小豆はかつて北海道で広く栽培されていたが、産地が集中したため、災害などで生産量が大きく変動することも増えている。農林水産省は機械化や施設の整備に補助金を出し、今後は産地の分散も後押ししていく方針だ。(高橋末菜、伊沢健司、長崎潤一郎)