計画から70年近い歳月と、国内のダム建設史上最高額の約5320億円を投じた八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)。完成予定の2019年度末に向け、工事現場に人波が押し寄せている。
11月上旬の週末の午後、ダム南岸の川原湯地区。移転代替地として山の北斜面に造成された高台に、老若男女が集まった。“工場萌(も)え”感覚で、「やんばツアーズ」と銘打たれた見学会の一つ、予約不要の「ぷらっと見学会」。ダム直下の吾妻渓谷の紅葉狩りの時期と重なり、1回の定員40人の3倍超の140人が参加した。この日だけで699人が集まったという。
案内役の女性が言う。「紆余(うよ)曲折がございましたが、現在24時間体制で工事を行っております」
計画の発端は、戦後間もない1947年のカスリーン台風。利根川流域で1100人の死者を出した。52年、国は洪水対策を掲げて八ツ場ダムを計画。地元では激しい反対運動が起こった。85年にダム建設を事実上受け入れたが、その後も工期は何度も延長。工費も膨らんだ。
その名が全国区になったのは2009年。水需要が伸び悩み、治水効果も疑問視され、民主党がマニフェスト(政権公約)に建設中止を掲げた。一躍、政権交代の象徴となった。だが結果的に建設は続き、一転して政権混迷の象徴になった。
ツアーは約40分。ダムの本体工事現場へ続く崖上の道を歩く。眼下には吾妻川。そして国道や鉄道の跡。案内役の声が飛ぶ。「今しか見られない貴重な景色になっております」。来秋には、完成前に試験的に水をため始める。
ダム本体の間近で、多くの人が…