安倍政権が「70年ぶりの抜本的な見直し」と位置づける漁業法改正案をめぐり、野党が対決姿勢を打ち出している。漁獲管理の強化や新規参入を促す規制緩和などの内容に、漁業者らから懸念が出ているためだ。
法案を審議する27日の衆院農林水産委員会では、立憲民主党の亀井亜紀子氏が「質疑時間が短くあまりにも拙速だ」と指摘。公聴会や現場視察を実施した農協法改正を引き合いに、慎重な審議を求めた。吉川貴盛農林水産相は「丁寧な説明に努めたい」としたが、与党側は28日の採決を提案。野党側は応じない構えだ。
1949年に制定された漁業法は、漁業の基本的なルールを定める。今回の改正は「漁業の成長産業化」を掲げ、先行した農業改革と同様、政府の規制改革推進会議の議論を反映させる形で進めてきた。
焦点のひとつは、これまで地域の漁業者の自主性を尊重してきた沿岸海域の管理や調整の仕組みの見直しだ。養殖を営むための漁業権では地元優先の原則をやめて新規参入を促し、資源管理では国が漁獲量の上限を決め、船ごとに配分する方法に軸足を移す。
地域の漁業を調整する組織の公選制廃止や、密漁の罰則強化も盛り込まれた。改正法成立後に具体的な運用を決める部分も多い。
漁業権の見直しでは、今の漁業者らが「適切かつ有効」に漁場を使っている場合は権利は維持される。だが、どうすれば「有効」と解釈されるのかなどに現場の懸念が残る。漁獲枠の設定をめぐっても、先行実施しているクロマグロでは漁業者らの不満が強い。
野党は法律の位置づけが大きく変わることも問題視する。漁業法第1条にあった「漁業の民主化」といった文言がなくなり、新たに「国民に対して供給する使命」などが盛り込まれた。野党幹部は「産業政策だけの法律になってしまう」と話す。
事前に法案を審査した自民党の会合でも「何をこんなに急ぐのか」「沿岸漁業者が本当に改革の必要性を理解できているのか。時間が足りない」といった声が上がったが、最終的に受け入れた経緯がある。(山村哲史)
漁業法改正の主な内容
【資源管理の見直し】
・漁獲量の上限を決めて、船ごとに漁獲枠を割り当てる管理を基本とする
・漁船の大きさの規制を緩和
【漁業権の見直し】
・養殖などで地元の漁業者らを優先するルールを撤廃
→漁場を「適切かつ有効に活用」している漁業者は引き続き使える
【その他】
・海区漁業調整委員会の公選制を廃止して知事が任命
・密漁の罰金を最大200万円から3千万円に引き上げ