「働き方」国会・余録
「ダメだダメだ!」。6月28日、参院厚生労働委員会。高収入の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)を含んだ働き方改革関連法案が採決を迎えると、高プロを「過労死を助長する」と批判して反対してきた石橋通宏氏ら立憲民主党の議員は、声を荒らげた。
法案は、与党などの賛成多数で可決。続いて乱用対策などを求める付帯決議案を、いま立憲と一緒に法案に反対したばかりの国民民主党の小林正夫氏が読み上げ始めた。自民、公明と野党の国民などが採決に備えて事前に調整していたもので、立憲は土壇場で提案者から外されていた。
石橋、小林両氏とも、労働組合の中央組織・連合の組織内議員だ。本来なら労働政策の審議には一枚岩で対応するはずが、審議の最終局面であらわになったのは「徹底反対の立憲」と、付帯決議に主張を反映させにかかった「現実路線の国民」との亀裂だった。間を取り持つはずの連合が無力だったのは、高プロをめぐり、連合自身が大きく揺れた経緯があったからだ。
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昨年5月下旬、逢見(おうみ)直人事務局長(当時)の呼びかけで千葉県成田市のホテルに幹部十数人が集まり、泊まりがけの役員会が開かれた。用意された議題を終えると、労働法制担当の村上陽子総合労働局長が切り出した。「高プロで、政府と修正協議をしています」
これまで連合が「過労死を増やす」と反対してきた高プロをめぐる唐突な報告に、「組合員に説明がつかない」と会場は騒然となった。「国会に出されたら修正できない。少しでもましな制度にするためだ」との説明にも、「賛成したと受け取られる」などと反発が続いた。議論は1時間超に及んだが、明確な結論は出ずじまいだった。
それでも、逢見氏らは水面下で政府と修正協議を続けた。昨年7月13日には神津里季生(こうづりきお)会長が安倍晋三首相と会談し、高プロ適用者の働き過ぎを防ぐ健康確保措置を手厚くする修正を要求。政府は受け入れる姿勢を示したが、今度は連合の組織内からだけではなく外からも「高プロ容認だ」と批判が噴出した。
神津会長は「高プロ反対は変わらない」と理解を求めたが反発は収まらず、連合傘下でない労組の関係者や市民らが連合本部を取り囲んでデモをする事態まで起き、反発を受けた連合は翻意。合意は見送られた。
ところが、右往左往する連合を横目に、政府は試合巧者だった。連合の要求をそのまま採り入れ、高プロを修正。安倍首相や加藤勝信厚労相は国会審議で、幾度となく連合の要求を反映した点を強調し、高プロが連合のお墨付きを得たかのような答弁を繰り返した。自らがブレた連合は、支援する国民民主と立憲民主が袂(たもと)を分かっても関係を修復できず、野党が高プロ撤回で一枚岩になる環境を生み出せなかった。
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そして、連合がとった「現実路線」は、働き手のことを本気で考えたものだったのか。たとえば高プロの健康確保措置では、連合が修正協議をしたにもかかわらず「臨時の健康診断」という企業の負担が軽い選択肢が残り、「抜け穴」として批判を浴び続けた。修正協議を主導した逢見氏は当時、ある議員に「高めの球は投げず、合意(の落としどころ)を読んで進めた」などと説明したという。
法成立後、神津会長は朝日新聞のインタビューに応じ、高プロを含む法案への対応をこう振り返った。「いまの一強の政治構造の中、最善は尽くしてきた」(贄川俊、土屋亮)