米中首脳会談で両国が合意した「90日間」の通商協議で、米トランプ政権は、責任者に対中強硬派として知られる米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表をあてると明らかにした。中国による知的財産の侵害やサイバー攻撃などを巡って厳しい交渉が見込まれ、関税の応酬が再びエスカレートする懸念もぬぐえない。
1日にあった米中首脳会談では、米側が来年1月から予定していた対中制裁関税の10%から25%への引き上げを見送ることなどで合意。米側の発表では、1日から90日間となる来年2月末を期限として知財問題などを協議し、折り合えなければ税率を引き上げる。
経済政策を主導する米国家経済会議(NEC)のカドロー議長は3日の電話会見で、交渉の指揮権が「ライトハイザー氏に委ねられた」と述べた。弁護士出身のライトハイザー氏は1980年代、レーガン政権でUSTRの次席代表を務めた。日本との鉄鋼協議で輸出の自主規制を引き出した「剛腕」で、「中国が米側の知財を奪うことで経済・軍事覇権を握ろうとしている」と強く懸念する対中強硬派の代表格だ。
今年半ばまでの対中協議は、金融界出身で穏健派のムニューシン財務長官が主導。5月には中国の劉鶴(リウホー)副首相との間で関税の応酬を「一時停止」することで合意したが、米政権の対中強硬派の意向でほごになり、求心力を失っていた。
そのムニューシン氏は3日、米CNBCテレビのインタビューに、首脳会談で中国側から「1兆2千億ドル(約136兆円)超の輸入を増やすと申し出があった」と語った。中国側が長期にわたる米国産品の輸入拡大案を示したとみられる。購入拡大の項目には、工業製品や自動車、液化天然ガス(LNG)などが含まれているという。
ただ、中国側にとって輸入拡大は譲歩しやすい条件だ。市場の需給にも左右されるため、「口約束」に終わる可能性もある。サイバー攻撃や海外企業への技術移転の強要など、米側が問題視する中核的な項目についての具体的な改善策や譲歩の提案は見えてこない。
米側にとって中国を牽制(けんせい)する決め手の条件である「90日間」の猶予期間についても混乱があった。カドロー氏は会見で起点を記者に問われ「来年1月1日」と明言。その後ホワイトハウスが「今年12月1日」と訂正した。実質的な交渉期間は、既に3カ月を切っている。
一方、中国側は具体的な協議の内容について明らかにしていない。4日の外務省会見で、米国側の一連の発言について問われた耿爽副報道局長は「私がお伝えできるのは、1日の首脳会談で新たな追加関税を停止することで共通認識を得たということだ」と話し、前日の説明を繰り返した。中国メディアの証券日報は4日、「担当省庁が米国産輸入車の関税引き下げを議論しているが、下げ幅は決まっていないようだ」と報道した。(ワシントン=伊藤弘毅、青山直篤、北京=新宅あゆみ)