NPO法人アジア水中考古学研究所(福岡市)の静岡県熱海市初島沖海底遺跡の現地調査に同行した。三葉葵(みつばあおい)の紋所入り鬼瓦を含む江戸城の屋根瓦など、大坂から江戸に向け航海中に沈んだ荷船の積み荷がそのままの姿で残っていた。300年以上の時を超えたタイムカプセルだ。
調査は13日から16日までの4日間実施。初島ダイビングセンターの協力で、初島西岸沖水深20メートルの海底に研究所メンバーの研究者や学生ら11人が潜水した。朝日新聞文化財団の助成を受ける。
水温が20度を下回って、海中の透明度が良くなっており、潜降を始めるとすぐ、黒い塊が目に入ってくる。近づくと整然と並べられた屋根瓦だった。何層にも重なっており、おびただしい数だ。平瓦を中心に丸瓦、軒平瓦、軒丸瓦も交じる。砂地の上に横たわる鬼瓦にはくっきりと三葉葵の紋所が浮き上がっていた。遺跡の範囲は5メートル四方。すり鉢や砥石(といし)も見つかっており、船体の木材も残る。
瓦は17世紀から18世紀の初めごろ、江戸城の瓦を一手に作っていた大坂の寺島家製で、すり鉢は丹波で作られたものであることが分かっている。
調査は2011年から始めた。海底遺跡はまだ、法的な保護の対象になっておらず、研究所は調査を通じて詳細を明らかにして文化財保護法の埋蔵文化財包蔵地としての登録を目指す。
調査班リーダーの研究所理事で東京海洋大学非常勤講師(水中考古学)の林原利明さん(58)は「徳川幕府と江戸城、当時の産業、流通までも伝える貴重な海底遺跡だ。保護し教育などへの活用を進めるためにも重要な調査だ」と話した。(岡田和彦)