(26日、スピードスケート全日本選手権)
「棄権することにした」
女子では500~5000メートルの4種目の合計ポイントで総合優勝を争う今大会。3種目を終えて暫定首位に立つ高木美帆(日体大助手)が、最終5000メートルに出場しないことを口にした。この時点で総合2位とは約36秒差。2年ぶり2度目の日本一の座は手中にあった。「タイトルを取りに行かないのは心苦しい。でも、(ワールドカップ4戦を戦い終えた)過酷なスケジュールの中でこなすのは体一つでは限界だった」と理由を語った。
てんびんにかけたのは「全日本のタイトル」と「世界での活躍」だ。今大会は高木美が2連覇を狙う来年3月の世界選手権の選考会を兼ねる。選考対象は1500メートルと3000メートルの2種目。最終種目に出て全日本覇者の称号を得ても、世界への道は開かれないところにジレンマがある。
高木美が選んだのは「世界」だった。国内最高記録で制した初日の3000メートルに続き、この日の1500メートルは2位に3秒以上の差をつけて圧勝。すぐに目を向けたのが、29日開幕の全日本スプリントだった。
平昌五輪500メートル金メダリストの小平奈緒との対決と、来年の世界距離別、世界スプリントの出場権獲得もかかった重要な大会だ。「スプリントでも結果を出す」と高木美。この日の棄権は世界で戦うことを最優先に、体のコンディションを考えた末の苦渋の結論だった。
今大会は高木美だけでなく女子では3種目終了時点で総合3位佐藤、男子では同2位のウイリアムソンらが最終種目を棄権した。
一方で歴史ある全日本は今回で86回を数え、日本一のオールラウンダーの滑りを楽しみにする観客もいる。棄権者の続出は大会の権威が揺らぐ事態だ。日本スケート連盟スピード強化部長の湯田淳さんは言う。「国際大会の選考を放棄してまで(大会の)歴史と伝統を重んじるのか。選考は岐路に立つ。ただ、選手は世界を見ている」(榊原一生)
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26日は世界選手権などの代表選考会を兼ねて明治北海道十勝オーバルで最終日があり、女子は高木菜那(日本電産サンキョー)が4季ぶり2度目の総合優勝を果たした。男子は1万メートルを制した土屋良輔(メモリード)が153・155点の日本新記録で初の総合優勝。
男女とも4種目のタイムをポイント化し、合計得点で総合順位が決まる。この日の1500メートルを制し、3種目終了時点で女子の総合得点トップだった高木美と、3位だった佐藤綾乃(高崎健康福祉大)は最終種目の5000メートルを棄権した。今大会の1500メートルと3000メートルのタイムに基づき、来年3月の世界選手権(カナダ・カルガリー)の代表に2連覇がかかる高木美らが決まった。