もう限界なのか。硬い表情で花道を引き揚げる横綱の後ろ姿に、ファンの視線が集まった。15日の取組で手痛い3連敗を喫した稀勢の里。「綱の重圧か」「もう少し頑張って」。ファンの思いには、期待と悲哀が入り交じる。
崩され、のけぞる稀勢 協会幹部「横綱の相撲ではない」
稀勢連敗、座布団舞わず もはや番狂わせですらないのか
午後5時半過ぎ、東の花道から稀勢の里が入ってきた。桟敷席には「稀勢の里」と書かれたタオルが掲げられ、手拍子とともにコールがわき起こる。優勝がかかっているかのような異様な雰囲気だ。
両国国技館そばの広場では、中に入れなかったファン約80人が中継モニターを見つめた。「よーし、行けよー」「頑張れ」
だが、取組が始まると声援は悲鳴に変わり、ため息が広がった。前日に続いての「金星」配給なのに座布団すら舞わない。モニター前では「ダメだな……」との声が漏れ、結びの一番を前に人だかりがしぼんだ。
兵庫県尼崎市の活洲(いけす)陽一さん(63)は「見ていてつらいね」とこぼした。初日は館内で観戦した。「久しぶりの日本出身の横綱だし、今までずっと応援してきた。もう一度優勝してほしかったが……」と話す。
大関昇進前から期待と声援を集め続けてきた人気横綱。兵庫県香美町の男性(68)は「横綱の重圧は大きいだろうけど、明日も土俵に上がってほしい。後ろから押してやりたいくらいだ」と言う。
東京都新宿区の主婦(62)は「稀勢の里には素質があるけれど、なかなか発揮できないもどかしさがある。『もっとやれるはずなのに』という気持ちを、みんな重ね合わせて応援していたのかもしれない」と語る。「期待が集まりすぎたのかもしれないけど、このままでは、すっきりと『お疲れ様』と言えない」
地元、茨城県牛久市の商業施設であったパブリックビューイングでも数十人が見守った。市内の無職、伊藤勝武さん(73)は「あ~、ちくしょう」と声を荒らげた。勝敗に関係なく応援を続けてきたが、「優勝していたころとまるっきり動きが違う。内容がひどい。(引退の)二文字が出てくるなあ」。目に涙がにじんだ。
近くの茶店「平喜園」では、稀勢の里が勝った日は、夕方から翌日正午まで割引販売をしてきた。店長の中村美智枝さん(68)は「もう少し頑張ってほしいけれど」と残念そうに話した。