ハンガリーとセルビアを結ぶ新しい鉄道の建設が難航している。「一帯一路」経済圏構想を掲げる中国が、欧州をつなぐ象徴として支援を約束してから5年余り。遅い歩みの背景を探ると、中東欧をめぐる中国と欧州連合(EU)のせめぎあいが見えてきた。
19世紀からの歴史が漂うクリーム色の荘厳な駅舎。ブダペスト東駅のホームで待っていたのは、落書きだらけの古びた列車だった。わずか3両。定刻の午前7時57分に出発し、ベオグラードまで約350キロの単線を9時間かけて走る。運賃は30ユーロ(約3700円)。線路の傷みが激しく、速度を上げられないため、長距離バスよりも遅い。終点まで乗っていたのは、同じ車両で私だけだった。途中、ドナウ川を白い鉄橋で渡る。EUなどの支援で2018年に新設されたばかりだ。もとの橋はコソボ紛争中の99年、米国と欧州でつくる北大西洋条約機構(NATO)による空爆で壊され、仮の橋を使っていた。地域から忘れられたような路線だ。
「EUのインフラ整備の重点からずっと外されてきたが、中国のお金でようやく動き出す」。ハンガリー首相府報道官のゾルタン・コバチ氏は説明する。「新線は、旅客ではなく、貨物が中心。欧州の物流は大きく変わる」。高速鉄道と語られるが、貨物主体なら最高時速は150キロほどにとどまる。それでも運行時間は3分の1程度に縮まる。
中国には、新線と、欧州債務危機を機に買収したギリシャのピレウス港とをつなぎ、中東欧へ自国の製品を運び込む狙いがある。
中国がハンガリーとセルビアの両国に対して、新線の建設に協力を申し出たのは2013年秋。「欧州危機」をきっかけに始まった中国・中東欧諸国協力(16+1)の2回目の首脳会議だった。「一帯一路」を掲げる習近平(シーチンピン)政権は、中東欧を欧州における戦略拠点と位置づけた。
この16カ国をみると、EU加盟国はハンガリーなど11カ国、セルビアなど5カ国は非加盟だ。EUを軸に区切られる両国の間を、中国は自らの資金で結ぶ象徴として新線を重視する。
だが、総額約30億ドル(約3300億円)の事業のわりに、歩みは遅い。
なぜか。その裏には、EUの「…