「えっ、東京にバンクシーの作品があるの?」。今月中旬、そんな話題が日本中を席巻しました。でも、「バンクシーって誰?」と思った人も多かったのではないでしょうか。神出鬼没のアーティストで、素性は謎に包まれ、世界のあちこちで作品を描いています。どんな人物か。目的は何か。バンクシーに関する訳書がある東京芸術大の毛利嘉孝教授(社会学)に解説してもらいました。
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――バンクシーって、本名ですか?
昔から使っていますが、違うと思われます。
――なぜ素性を明かさないのでしょうか?
最大の理由は、バンクシーの作品発表はグラフィティ(落書き)の形式を取っており、通常は違法行為だからです。ただ、グラフィティは政府や行政が「許可する」というから描くのではない。さらに言うと、バンクシーにとっては、素性を明かさないこともパフォーマンスなのでしょう。
――出身地はイギリスの南西部ブリストルといわれていますよね。
本当にブリストルの出身かはわかりませんが、活動を開始したのはブリストルとされています。2000年前後のことです。初期の頃にはグラフィティのコミュニティーで活動していて、作品に名前を書いたり、イベントを企画したりしていました。
「Banksy」と記されたロゴも使っていました。現在は型を抜いた台紙の上から描く「ステンシル」という手法を取っていますが、当時はスプレーを用いたカラフルな絵も描いていました。私自身が注目し始めたのは、彼が3冊セットの小さな画集を出したころです。一時、どこでも売っていたもので、これで名前が売れました。「政治色が強い」というよりは、「ユーモアのあるアーティスト」という印象でしたね。
――いまは政治色が強いアーティストとして知られています。
バンクシーはイラク戦争の反対運動もしていました。グラフィティに描いたテーマは、反戦、移民・難民、反資本主義、反再開発などです。社会的弱者、追い出される人、なくなってしまう文化。そういったものを守ったり、可視化したりすることが特徴です。また、大人から子どもまで、わかりやすい。強いメッセージ性とともに、ユーモアもあります。
――英ガーディアン紙は2003年7月の記事でバンクシーのインタビューを載せ、「バンクシーは白人男性で28歳」と書いています。記事が正しければ、いまは43歳か44歳ですね。
年齢はそのぐらいだと思われています。40代前半、中盤ぐらいではないかと。バンクシーはメディアに顔を出しませんが、非常に宣伝にたけているんですね。素性を明かさないということも含めて、すごく練っている。バンクシーを探すこと自体が、メディアで話題になる。必要だと感じた際には、インタビューに応じていますが。
――バンクシーは複数人で活動している、という説もあります。
初期は一人だったと思います。…