インドネシアで昨年末に発生した津波は、警報が出ないまま沿岸に到達し、多くの犠牲者を出した。津波は火山島の崩壊で発生したとみられ、崩壊の規模は日本で過去最多の犠牲者を出した火山災害に近い可能性があることが分かってきた。
研究者にじむ危機感、「切迫」する北海道沖の超巨大地震
インドネシアで12月22日に発生した津波は、スンダ海峡に浮かぶ火山島アナククラカタウの噴火と山体崩壊が原因とみられる。島は南西部分がほぼ崩壊。338メートルあった島の標高は110メートルになったという。インドネシア国家防災庁などによると、津波によってジャワ島やスマトラ島で400人以上が死亡した。
この海域では1883年、元々あった火山島が巨大噴火によって海中に陥没、津波で3万人以上が犠牲になった。アナククラカタウ島は、20世紀に入って同じ海域に新たに海底火山が噴火、成長してできた。
ジャワ島沿岸部の被災地を調査した東北大の今村文彦教授(津波工学)は「警報がないまま突然押し寄せ、沿岸の人にとっては不意打ちだったのでは」と見る。
今村さんらの調査によると、津波の高さは最大5メートル、遡上(そじょう)高は13メートル。海面変化が大きい海底断層のずれによる津波と違い、広範囲に大きな被害が及んでいなかったが、局所的に高い波が押し寄せた痕跡が見られたという。
過去には日本でも被害
東京大地震研究所の前野深(まえのふかし)准教授(火山地質学)は、今回の災害について「まさに国内の過去事例をほうふつとさせるものだ」と話す。
前野さんらは、周辺の4地点の潮位計から得た津波の波高データなどをもとに、崩壊した土砂の体積を検討。0・21~0・26立方キロメートルと見積もった。これは、1792年の「島原大変肥後迷惑」で知られる、長崎県・島原半島の眉山の崩壊(0・3~0・48立方キロメートル)に近い規模だ。このときは有明海を挟んで対岸の熊本県側にも津波が及び、両岸で1万5千人が犠牲になった。
国内ではこのほか、日本海側に津波被害をもたらした1741年の北海道・渡島(おしま)大島(約2・5立方キロメートル)など、さらに大規模な火山の山体崩壊も知られる。
津波は地震の震源や規模などを元に予測するため、地震以外で起きる津波の警報を出すのは難しい。前野さんは「同様のことが起これば警報は難しいだろう。過去の事例から崩壊しそうな火山を洗い出し、土砂の移動過程などを理解することが警報の開発につながる」と言う。
今村さんは「沿岸部にある検潮所では津波の到達に間に合わない。対応が難しいが、火山活動の段階に応じて波高を測るブイなどを臨時で海域に設けるなど、できることはある」と話す。(小林舞子)
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