小児がん患者の治療や生活の現状を把握するため、厚生労働省は実態調査にのりだす。国としての調査は初。病名を知らされていない患者もいるため、家族らに治療の影響や経済的負担を聞く。国のがん対策に反映し、より良い支援策をはかるという。
痛くても吐いても… 院内学級に行きたい、がんの子たち
がんとともに ネクストリボン
厚労省によると、年間約2千~2500人が小児がんと診断される。白血病、脳腫瘍(しゅよう)、悪性リンパ腫などが多い。発見が難しいとされるが、治療の効果は高く、治る割合は高くなっている。だが抗がん剤や放射線治療により、脳の認知機能の低下やホルモン異常に伴う低身長、不妊など後から出る晩期合併症も多い。
対象は、2014年と16年に小児がん拠点病院などでがんと診断された18歳以下の計4千人ほど。5月以降に病院などに調査票を送り、記入してもらう。結果は年度内にまとめる予定。
がんの種類や治療法のほか、費用が原因で治療を変更・断念したことがあるか、不妊などのリスクについて治療の前に十分な説明があったか、本人の就学状況、治療と教育の両立への配慮の有無、家族の働き方に変化があったかも尋ねる。
結果は、17年度からの国の指針「第3期がん対策推進基本計画」の評価に活用する。今後は患者本人への質問や、就学・就職などについて経験者への調査も検討するという。
小児がんへの対応は、12年度からの国の指針「第2期がん対策推進基本計画」に盛り込まれ、全国15カ所に拠点病院が整備された。ただ、患者数が少ないこともあり、対策の遅れが指摘される。第3期基本計画では15歳以上のAYA(Adolescent and Young Adult=思春期と若い成人)への取り組みも明記された。
学齢期に長期の治療を受けると勉強が遅れたり、友達と溝ができたりして、復学がうまくいかないことがある。治療を受けながら院内学級や特別支援学校で学ぶ体制が整いつつあるが十分ではない。
また、容姿の変化や体力低下、後遺症、晩期合併症があるため、進学や就労、結婚、出産など人生の節目で壁にぶつかることもある。成人後も含めて長い間、検査や診察を受ける必要がある。治療内容を本人が把握し、小児医療から成人の医療へ移行していく難しさもある。
国立成育医療研究センターの松本公一・小児がんセンター長は「厳しい治療を乗り越えて退院したのに『つらいことばかり』とならないように社会の支援がさらに必要。特に、つまずきが将来に影響を及ぼす教育分野は重要」と話す。(黒田壮吉、上野創)