予防注射で水族館の貴重な魚を病気から守るという、世界的に珍しい取り組みが国内で始まった。水槽という限られた空間で飼われている魚は、1匹が病気になれば、感染して全滅という事態にもなりかねない。元気な姿を見てもらおうと、魚のお医者さんや研究者が連携している。
葛西臨海水族園(東京都江戸川区)の1階。「南アフリカ沿岸」がテーマの水槽に「ロックサッカー」がおなかの吸盤で吸い付いていた。つぶらな瞳が愛らしくマスコット的な存在だ。
この魚が2018年初めごろから、相次いで死んだ。繁殖用の水槽では元気なのに、展示すると3カ月くらいしか生きられず、他にも死ぬ魚が出た。
同園の研究室で吉沢円獣医師が顕微鏡をのぞいていた。細かい毛が生えた涙形の体が盛んに動いていた。ロックサッカーから見つかった「スクーチカ」という寄生虫だ。感染すると筋肉が壊死(えし)し、死亡する。「病変部が1日で拡大する恐ろしい病原体で、園内でも危機感が広がった」と話す。
同園では14~15年、マグロの大量死が発生。原因を究明し、可能な限り大量死を防ぐことに力を入れていた。病気なら、水槽の掃除の徹底や、消毒で抑えられることもある。だが今回の水槽には他の生物もいて、強い薬はイソギンチャクに悪影響が出る。病気の魚は、別の水槽に薬を入れての隔離くらいしかできず、多くは打つ手がなかった。
対策が限られる中、たどり着い…