日本とフランスで活躍した画家・藤田嗣治(つぐはる、1886~1968)が渡仏前の1911(明治44)年に描いた未発表の風景画が見つかっていたことがわかった。藤田の初期の作品は10点余りしか確認されておらず、作風の歩みを知る上で貴重とされる。
寄贈先の平野政吉美術財団(秋田市)が16日、取材に明らかにした。作品は油彩画の「榛名湖(はるなこ)」(縦33・3センチ、横24・2センチ)。1911年、最初の妻・鴇田(ときた)とみと旅行した群馬県の湖畔で描いたと思われる。湖の奥に榛名山、手前に畑や民家がたたずむ風景をとらえた。タッチは荒めだが、色彩には深い落ち着きがある。藤田は同年、とみと暮らし始めたばかりで、当時の穏やかな境地がうかがわれるという。
同財団の原田久美子学芸課長は「ゴッホやゴーギャンなどのポスト印象派の影響が見て取れる。藤田が渡仏前、日本で風景画の方向性を見据えていたことが分かる貴重な作例だ」と位置づける。
作品は2017年12月、とみの生家(千葉県市原市)の蔵で解体作業中に発見された。翌年、壁画「秋田の行事」など藤田の作品を多く所蔵する平野政吉美術財団に遺族から寄贈された。同財団は今年11月、秋田県立美術館(秋田市)で、「榛名湖」を含む藤田の作品を公開する予定。(渡部耕平)