日本とフランスで活躍した画家・藤田嗣治(つぐはる)(1886~1968)が渡仏前の1911(明治44)年に描いた未発表の風景画が見つかった。寄贈された平野政吉美術財団(秋田市)が公表した。藤田の初期の作品は10点余りしか確認されておらず、専門家は「作風の歩みを知る上で貴重」と評価する。
財団によると、作品は油彩画の「榛名湖(はるなこ)」(縦33・3センチ、横24・2センチ)。湖の奥に榛名山、手前に畑や民家がある風景で、11年に最初の妻鴇田(ときた)とみと旅行した群馬県の湖畔で描いたと思われる。タッチは荒めだが、色彩に深い落ち着きがある。藤田は同年、とみと暮らし始めたばかりで、当時の穏やかな境地がうかがわれるという。
作品は2017年12月、とみの生家(千葉県市原市)の蔵で解体作業中に見つかり、翌年、壁画「秋田の行事」など藤田の作品を多く所蔵する平野政吉美術財団に遺族から寄贈された。
藤田の研究者で北海道立近代美術館(札幌市)の佐藤幸宏・学芸副館長は「初期作品の中ではタッチが厚くて太め。ゴッホやゴーギャンらポスト印象派の影響を受けており、海外の絵画技術への強い関心と風景画への方向性がうかがえる。だがポスト印象派の強い色彩とは違い、調和のとれた色使いをしている。渡仏前の藤田の作品や資料は少なく、欧州絵画への意識を知る手がかりとなる貴重な作品だ」と評する。
財団は今年11月、秋田県立美術館(秋田市)で、「榛名湖」を含む藤田の作品を公開する予定だ。(渡部耕平)