食料や薬が手に入らず、多くの人が死の恐怖におびえる一方で、富裕層は高級レストランで食事を楽しんでいた。2月末から3月上旬にかけて、政情不安が続く南米ベネズエラに記者が入った。長年の経済失政と汚職の横行で人道危機が進み、独裁体制を固めたマドゥロ大統領と同氏退陣を求める野党勢力は対立を深めている。(岡田玄)
2日午前、南米ベネズエラ中西部ボコノイト。主婦マルリーン・ロサレスさん(33)は自宅で生後10カ月のアンヘルちゃんを抱いて、途方に暮れていた。腕は細く、頰はやつれ、目元はくぼんでいた。
ロサレスさんはこの2年、食事は1日一度だけだ。肉や卵は手に入らない。食べるのは、油で揚げたパンか庭になったバナナだ。52キロあった体重は34キロになった。母乳は出ないため、アンヘルちゃんには干したバナナを粉にして、水で溶かして飲ませている。
産油国ベネズエラはかつて南米屈指の豊かな国だった。だが、石油価格の下落で経済が悪化。経済運営の失敗で外貨不足に陥り、輸入もできず激しい物不足に襲われた。国会によると、昨年のインフレ率は169万%。国連は2月、人口の1割強の約340万人が国外に逃れたと発表した。
ボコノイトのスーパーでは食料品が消えた。政府は半月ごとに食料を配布すると約束したが、数カ月に一度、わずかな食用油やトウモロコシ粉が届くだけだ。
夫のフリオ・パラさん(54)は測量士で、電気会社や石油関連企業で働いてきた。経済が悪化する前は車もエアコンも冷蔵庫も不自由なく買え、食べ物に困ることもなかった。だが、約10年前から企業の倒産や廃業が続き、この1年は仕事が見つからない。
アンヘルちゃんはここ数日、嘔…