幸せを呼ぶとされる四つ葉のクローバーを栽培している農家がある。岡山県鏡野町の矢部きのこ園。料理の飾り付けなどに使われ、ホテルや結婚式場から注文が相次いでいる。
鏡野町役場から車で5分ほどのビニールハウス。クローバーが植えられた約250個のプランターがずらりと並ぶ。葉をよく見ると、三つ葉の中に四つ葉が交じる。「この株では1割ほどが四つ葉になるんです」。そう話すのは矢部きのこ園を営む矢部晃明さん(54)だ。
矢部さんは岡山市出身。市内の専門商社で働いていたが脱サラして鏡野町で農業を始めた。農業知識はゼロ。土作りや肥料の与え方に試行錯誤を繰り返した。
10年ほど前、シイタケを栽培していたビニールハウスが雪の重みで倒壊。失意に沈んでいた時、町内の道の駅で、飾り用の笹(ささ)や紅葉の葉が売れ筋であることに気付いた。「田舎ではあたり前のものが、商品になるのか」。料理に添える葉などを売る「葉っぱビジネス」を展開する徳島県の農家を視察。自分でも落ち葉の販売を始めた。
ある日、町内を散歩中に偶然、クローバーが目にとまった。「四つ葉のクローバーはつまものとして売れるのではないか」。そう思いつき、空き地を回って探していると、四つ葉の多い株を発見。持ち帰って育てることにした。2年ほど選別を繰り返し、全体の1割ほどが四つ葉になる株ができた。遠方へ出荷しても傷まないよう、水を含んだスポンジの上に葉を載せるパッケージも考え出した。
ホテルのレストランに売り込みに行くと、「ぜひ使いたい」という反応だった。評判が口コミで広まり、東京都内のホテルなどから注文が相次いだ。
JR岡山駅に隣接するANAクラウンプラザホテル岡山のレストラン「ウルバーノ」。3月中旬、料理長の内田千尋さん(26)がデザートのイチゴのムース作りに取りかかっていた。
最後の仕上げに取り出したのは「四つ葉のクローバー」。ピンセットを使い、2枚の葉を慎重に盛り付けていく。「料理は味はもちろん、見た目も重要。特別感を演出するために四つ葉のクローバーは欠かせません」と内田さん。
同ホテルのウェディングプランナー三宅佐知子さん(36)によると、四つ葉がのった料理が運ばれると披露宴会場が盛り上がるため、新郎新婦に好評だという。「SNSにと写真を撮られる方も多くいらっしゃいます」
矢部きのこ園では中国・上海に農場を整備し、昨年から栽培を開始した。中国でも若い世代を中心に「四つ葉は幸せの象徴」という文化が広がり、需要の拡大が見込めるためだ。
「四つ葉を見て、ささやかな幸せを感じてもらえればうれしい」と矢部さん。価格は四つ葉10本で2千円。問い合わせは同園(0868・52・0028)。(榧場勇太)