放送中のNHK大河ドラマ「いだてん」で、評価が分かれているのがビートたけし扮する五代目古今亭志ん生だ。見方をちょっと変えれば面白さがわかるかも? 落語を愛する人たちに「五代目半志ん生」をどう見ているのか聞いた。
いだてんは、日本が初参加した1912年のストックホルム五輪から64年の東京五輪までを描く。昭和の名人で「落語の神様」とも言われる志ん生を演じるたけしが、60(昭和35)年の寄席の高座で五輪史を語りながら、物語の進行役を務める仕掛けだ。
劇中の時間は、たけしのいる昭和と、主人公のマラソン選手・金栗四三(かなくりしそう)が生きる明治を行き来しながら進む。やや複雑な構造に「わかりにくい」との批判があるほか、語り部であるたけしの滑舌が「聞き取りにくい」という声も。志ん生はどんな人だったのか。
昭和中期に精選落語会のプロデューサーを務め、志ん生と親交を重ねた演芸評論家の矢野誠一さんは「時代や常識からずれていたことが魅力だった」と振り返る。キューバのカストロ議長を話題にするなど時代に対して敏感だったという。
当時の観客は「欲求不満を全部破って売り物にしている志ん生に、憧憬(しょうけい)の念があった」という。たけし志ん生には「持ち味のシャープな感覚でフリーにしゃべって、たけしらしいずれた反応をしてくれればいい」と期待する。
売れっ子落語家の春風亭一之輔は、たけし志ん生に「昭和の落語家ってイメージ」を見る。照れ屋でヤボなことを嫌う江戸っ子の雰囲気を感じるという。たけしも下町出身の芸人だ。
ただ、「ドラマではたけしがしゃべってると思ってる。志ん生に似てなくてもいい」とも。酒に酔って高座で眠ったなど数々の伝説を残し、「天衣無縫な名人」像が独り歩きした感のある志ん生の役は、80年代の漫才ブームから一線で活躍し続けてきた「たけししかできない」とみる。
見た目やしゃべり方をまねると、どこかに違和感が出る。それよりは、たけしの芸風を生かして世間の常識を超越した存在を演じてもらいたい、というのが落語関係者に共通の見方だ。
書評家の岡崎武志さんは、いだてんでは「志ん生がどういう人物か伝わっていない」と考えて、「スピンオフで志ん生のドラマを作って説明するといい」と提案する。先に志ん生の人生を知ってからいだてんを見れば、時代背景などの理解が増すからだ。落語ファンはライバルの八代目桂文楽や次男の古今亭志ん朝の配役に注目しそうだ。
「寄席のセットが立派なので、たけしが出演する落語会をしてもいいのでは」とも。脚本の宮藤官九郎には「マラソンと一緒で、ペースを乱さずにゴールして」と望む。楽しみ方は、人それぞれにありそうだ。(井上秀樹)
脚本・宮藤官九郎 上り詰める人「興味ない」
「いだてん」の脚本を手がけるのは、「あまちゃん」などで知られる宮藤官九郎だ。放送開始前に報道各社のインタビューに応じ、作品に込めた思いを語っている。
いだてんの構想は、NHKの訓覇圭(くるべけい)プロデューサーと「スポーツやオリンピックをテーマにしたドラマをやろう」と話したのを機に動き出し、最終的に大河ドラマに結実したという。「オリンピックを夢中になって見るタイプではなかったけど、1964年の東京オリンピックには興味があった。市川崑さんの映画を見て、こんな時代があったんだな、と」
ビートたけし演じる古今亭志ん…